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「おい、なにぼーっとしてんの。こっちは質問してるんだから、答えろよ」
「湯田さんのことは、別にどうも思っていないよ。ただのクラスメイトだ」
想いを偽った後ろめたさは微塵もない。今、隼人が意識しているのは、我が身を守ること。この場を切り抜けるために、波風を立てないように慎重に受け答えをする。その二つだけだ。
「川真田さんたちにはそう見えたかもしれないけど、俺は湯田さんのことはなんとも思っていない。本当になんとも思ってないから」
「そう? 怪しいな。必死になって弁解してる時点で」
「弁解っていうか、事実を言っているだけだから」
「ああ、そう。じゃあ、うちのクラスに湯田の味方はいないってことでいいのかな? そういうことなら、よかった。思う存分痛めつけられるから」
樹音は世にもおぞましい、邪悪とした形容しようのない笑みに口角を吊り上げ、取り巻き一同の顔を順番に見た。見つめられた先から、彼女たちの顔にはリーダーそっくりの微笑に変わる。
「玲奈のおかげでネタもたくさん仕入れたことだし、これからあたしたちは、今まで以上に激しく湯田を虐待しようと思ってる。今後は面白い光景が見られると思うよ。学校に来るのが楽しみになるくらいの」
「そんな……。そんなこと、許されるはずが……」
「なんだよ、森嶋。お前、湯田はどうでもいいって言ったよな。だったら余計な真似、するなよ。したらどうなるか、想像くらいつくよね。お前が想像しているとおりのことをお前にするつもりだから、それが嫌なら言うことを聞け。わかったな」
この目だ、と隼人は思う。眩しいまでにぎらついた、攻撃的で凶暴な瞳。樹音のこの瞳に睨まれると隼人は、蛇に睨まれた蛙と化す。
恐ろしい、危害を加えられる、危害を加えられたくない、服従しなければ――。
そんな気持ちで頭がいっぱいになり、望んでいない要求にも首を縦に振ってしまう。
これまで森嶋隼人のクラスにおける立ち位置は、いじめっ子でもいじめられっ子でもない、その他大勢。樹音と接触する機会はほとんどなかったが、こうして面と向かって言葉をぶつけ合ってみて、川真田樹音という人間の恐ろしさの本質を理解できた気がする。
真理愛に不利益をもたらす行動をとる罪悪感は当然ある。しかし、否も応もなかった。樹音の眼差しには強制力がある。逸らすことができない。
隼人が首を縦に振ると、樹音は満足そうにうなずいた。そして、一同を促して教室を出て行った。
一人きりの教室で、隼人は己の無力さに打ちひしがれる。
湯田真理愛をいじめの被害から守りたい。その願いは以前から抱いていたのに、上手く立ち回れば悲願の成就に繋げられたかもしれないのに、彼女の利益になるようなことはなに一つできなかった。
「……俺は」
なんて情けないやつなんだ。
湯田さんがどこまで苦しい思いを重ねたら、俺は踏み出せるんだ?
「湯田さんのことは、別にどうも思っていないよ。ただのクラスメイトだ」
想いを偽った後ろめたさは微塵もない。今、隼人が意識しているのは、我が身を守ること。この場を切り抜けるために、波風を立てないように慎重に受け答えをする。その二つだけだ。
「川真田さんたちにはそう見えたかもしれないけど、俺は湯田さんのことはなんとも思っていない。本当になんとも思ってないから」
「そう? 怪しいな。必死になって弁解してる時点で」
「弁解っていうか、事実を言っているだけだから」
「ああ、そう。じゃあ、うちのクラスに湯田の味方はいないってことでいいのかな? そういうことなら、よかった。思う存分痛めつけられるから」
樹音は世にもおぞましい、邪悪とした形容しようのない笑みに口角を吊り上げ、取り巻き一同の顔を順番に見た。見つめられた先から、彼女たちの顔にはリーダーそっくりの微笑に変わる。
「玲奈のおかげでネタもたくさん仕入れたことだし、これからあたしたちは、今まで以上に激しく湯田を虐待しようと思ってる。今後は面白い光景が見られると思うよ。学校に来るのが楽しみになるくらいの」
「そんな……。そんなこと、許されるはずが……」
「なんだよ、森嶋。お前、湯田はどうでもいいって言ったよな。だったら余計な真似、するなよ。したらどうなるか、想像くらいつくよね。お前が想像しているとおりのことをお前にするつもりだから、それが嫌なら言うことを聞け。わかったな」
この目だ、と隼人は思う。眩しいまでにぎらついた、攻撃的で凶暴な瞳。樹音のこの瞳に睨まれると隼人は、蛇に睨まれた蛙と化す。
恐ろしい、危害を加えられる、危害を加えられたくない、服従しなければ――。
そんな気持ちで頭がいっぱいになり、望んでいない要求にも首を縦に振ってしまう。
これまで森嶋隼人のクラスにおける立ち位置は、いじめっ子でもいじめられっ子でもない、その他大勢。樹音と接触する機会はほとんどなかったが、こうして面と向かって言葉をぶつけ合ってみて、川真田樹音という人間の恐ろしさの本質を理解できた気がする。
真理愛に不利益をもたらす行動をとる罪悪感は当然ある。しかし、否も応もなかった。樹音の眼差しには強制力がある。逸らすことができない。
隼人が首を縦に振ると、樹音は満足そうにうなずいた。そして、一同を促して教室を出て行った。
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湯田真理愛をいじめの被害から守りたい。その願いは以前から抱いていたのに、上手く立ち回れば悲願の成就に繋げられたかもしれないのに、彼女の利益になるようなことはなに一つできなかった。
「……俺は」
なんて情けないやつなんだ。
湯田さんがどこまで苦しい思いを重ねたら、俺は踏み出せるんだ?
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