鏖の季節

阿波野治

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「なにが憎いかって言うとね、トモノリ。あいつらがわたしを虐げるからなのはもちろんだけど、それと同じくらい、きりがないから憎いの。その砂時計と同じ。終わったと思ってほっとひと息ついても、ひっくり返せばすぐにまた砂が落ちはじめる。トモノリは砂時計を見ると儚さを感じると言ったけど、わたしは共感できない。永遠の苦しみを表現した装置だとしか思えない。だからこそ、むかつくの。本当に腹立たしい」
「……湯田さん」
「果てのない連なりを終わらせるには、どうすればいい? 砂時計をひっくり返させないようにする? ううん、そんな甘い対応ではだめ。隙を見てひっくり返されて、また悪夢がはじまるだけだから。そうさせないための方法は、多分一つしかない」

 右手を伸ばして砂時計を掴みとる。真理愛はどこかトモノリを思わせる、色のない瞳でそれを見つめていたが、やおら顔の高さに振りかざし、床に叩きつけた。
 ガラスが音を立てて砕け、封じられていた砂があふれ出した。流砂は生物とも無生物もつかない動きで四方へと広がっていき、ほどなく静止した。

「――壊すしかないの。根源を破壊して、再起不能にしてしまうしかない」
 真理愛は機能と形を失った砂時計から目を切り、トモノリに視線を合わせる。

「いつかわたしはトモノリに、わたしは暴力的なことを嫌う人間だと表明したけど、あれは間違っていた。気づいていたけど、気づかないふりをしていただけ。暴力を愛してはいないかもしれないけど、行使したくなったときは行使するのを厭わない人間なの。その証拠に、ほら、砂時計を見て。壊す必要のない他人の私物を、いとも簡単に壊した。なぜ壊したかというと、目障りだったから。壊したかったら。わたしはね、ようするにそんな女なんだよ。理解できた?」

 トモノリは首を縦に振った。言下に、表情一つ変えずに、無言で。

 想定していなかった反応が返ってきたことで、真理愛の心ににわかに弱気が萌した。
 憎しみ、復讐心、殺意。それらの感情を抱いているのは間違いない。なおかつ、その程度が激しいのも事実。さらには、必要とあれば暴力を行使することを厭わない性格だというのも、正しい評価だと思う。
 しかし、激しい負の感情に突き動かされるままに暴力的な復讐を実行するのは、果たして正しいのだろうか?

 視線を足元に落とす。壊れた砂時計がある。
 粉々になったガラスを完璧に修復するのは、手先が器用なトモノリをもってしても困難だろう。砂に関しては、一粒残らず回収するのはほぼ間違いなく不可能だ。
 壊れた物体を完璧に元の形に復元するなど、絵空事。ましてや、復元の対象が人間となると。

「前も似たようなことを言った覚えがあるけど」
 沈黙を破ったのはまたもやトモノリ。その顔は異様なまでに真剣だ。攻守が切り替わったのを真理愛は感じた。
「誰かを殺そうとするのは悪だと断罪するつもりはないよ。暴力を振るわれたからといって暴力を返すのはもってのほかだと、聖人ぶって説教するつもりもない。むしろ僕は、君には自分の本心に忠実に行動してほしいし、君のために協力したいと思ってもいる。推測するに、君が小屋まで来たのは、僕が大量に保管している工具を貸してほしかったから、だよね。少し待ってて」
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