69 / 107
69
しおりを挟む
「わかった。友だちとして協力する。君にも扱いやすそうな工具、いつでも使えるように準備をしておく。好きな時間に小屋まで来て、自由に持っていって」
「ありがとう」
唇に唇を押し当てる。鉄と、木と、埃と、土の匂い。これがトモノリの匂いなのだ、と悟る。
撮影ボタンをタップし、なかば無理矢理引き離す。
唇が離れたとたん、照れくささが込み上げてきた。真理愛は立ち上がって駆け出す。跳ね回るスクールバッグの攻撃を脚に受けながら、走る。待ち構える樹音たちは、どことなく気後れしたような色を漂わせている。
要求されるよりも早く、真理愛は携帯電話の画面を見せた。黄色い歓声が上がった。二人の唇は、誰がどう見ても密着している。
樹音たちが幼稚にはしゃぐ中、真理愛はただ一人、いかにすれば彼女たちを鏖にできるのかを考えている。
見てしまった。
なんらかの決定的な情報を掴むのが、尾行という行為の一般的な目的なのだとすれば、隼人は今日それを達成した。
湯田真理愛、川真田樹音とその取り巻きたち、トモノリ。この三勢力が交差する未来を、尾行を開始した時点では想像もしていなかった。トモノリの小屋がある道は人気がない。誰の邪魔も入らないという環境を活用し、樹音たちは真理愛になんらか過激な真似をしようと企んでいるのではないか。むしろその可能性を危惧していた。
それがまさか、真理愛がトモノリにキスをするなんて。
隼人がその瞬間を目撃したのは、道端で見守る樹音たちよりもさらに遠い地点からだったが、それでも、命じられて嫌々したキスではないのがわかった。真理愛はトモノリを情熱的に抱擁していたし、顔の近づけかたも大胆だった。キスの瞬間を撮影した画像を見た少女たちの反応を見た限り、唇と唇が接したのは間違いない。
キス。湯田さんが、トモノリなんかと。
両者を結びつけているのは恋愛感情ではないかという疑いは、二人の交流を確認したときから抱いていた。たった今見た光景は、疑いが真実だと証明している。
だからといって、「やっぱりそうだったんですね」と軽く流せるはずがない。おいそれとは受け入れられない。
なぜって、隼人は湯田真理愛に恋をしているのだから。
ひとしきり騒いだあと、樹音たちは真理愛を取り囲んで道を遠ざかっていった。トモノリは小屋に入った。隼人は尾行を断念し、道を引き返す。
両脚は機械的に動きつづける。靴底が路面を踏みしめるたびに、腹の底から滲み出てくる感情がある。
怒りだ。嫉妬も憎悪も通り越しての、怒り。
「ありがとう」
唇に唇を押し当てる。鉄と、木と、埃と、土の匂い。これがトモノリの匂いなのだ、と悟る。
撮影ボタンをタップし、なかば無理矢理引き離す。
唇が離れたとたん、照れくささが込み上げてきた。真理愛は立ち上がって駆け出す。跳ね回るスクールバッグの攻撃を脚に受けながら、走る。待ち構える樹音たちは、どことなく気後れしたような色を漂わせている。
要求されるよりも早く、真理愛は携帯電話の画面を見せた。黄色い歓声が上がった。二人の唇は、誰がどう見ても密着している。
樹音たちが幼稚にはしゃぐ中、真理愛はただ一人、いかにすれば彼女たちを鏖にできるのかを考えている。
見てしまった。
なんらかの決定的な情報を掴むのが、尾行という行為の一般的な目的なのだとすれば、隼人は今日それを達成した。
湯田真理愛、川真田樹音とその取り巻きたち、トモノリ。この三勢力が交差する未来を、尾行を開始した時点では想像もしていなかった。トモノリの小屋がある道は人気がない。誰の邪魔も入らないという環境を活用し、樹音たちは真理愛になんらか過激な真似をしようと企んでいるのではないか。むしろその可能性を危惧していた。
それがまさか、真理愛がトモノリにキスをするなんて。
隼人がその瞬間を目撃したのは、道端で見守る樹音たちよりもさらに遠い地点からだったが、それでも、命じられて嫌々したキスではないのがわかった。真理愛はトモノリを情熱的に抱擁していたし、顔の近づけかたも大胆だった。キスの瞬間を撮影した画像を見た少女たちの反応を見た限り、唇と唇が接したのは間違いない。
キス。湯田さんが、トモノリなんかと。
両者を結びつけているのは恋愛感情ではないかという疑いは、二人の交流を確認したときから抱いていた。たった今見た光景は、疑いが真実だと証明している。
だからといって、「やっぱりそうだったんですね」と軽く流せるはずがない。おいそれとは受け入れられない。
なぜって、隼人は湯田真理愛に恋をしているのだから。
ひとしきり騒いだあと、樹音たちは真理愛を取り囲んで道を遠ざかっていった。トモノリは小屋に入った。隼人は尾行を断念し、道を引き返す。
両脚は機械的に動きつづける。靴底が路面を踏みしめるたびに、腹の底から滲み出てくる感情がある。
怒りだ。嫉妬も憎悪も通り越しての、怒り。
0
あなたにおすすめの小説
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる