鏖の季節

阿波野治

文字の大きさ
68 / 107

68

しおりを挟む
 樹音たちは顔を寄せ合い、しかしひそひそ話と呼ぶにはうるさすぎる音量で談判する。その結果は、グループのリーダー直々に真理愛に伝えられた。
「唇にしたら拍手を送ってあげる。唇以外の体のどこかなら、みんなから一発ずつ平手打ち。なにもできなかったのなら、一人あたり一万円払う。賞罰はそんな感じでどうかな。スマホ、持ってるよね。ちゃんと証拠写真撮ってこいよ。証明できなかったら、問答無用で罰金一万円だからね」

 いじめは、とうとう金銭を要求する段階にまで来たのか。
 純度の高い闇が真理愛の胸中に広がっていく。救いを求めるように首を回すと、トモノリは作業の手を止めて樹音たちのことを見ていた。視線は真理愛を捉えている。
 樹音たちのことはこれまでさんざんトモノリに話してきたが、彼が実際に樹音たちの姿を見たのはこれが初めてなのだ。そう思うと目頭が熱くなる。
 トモノリと言葉を交わしたい、と切に思う。

「おい、さっさと行け」
 背中を思いきり突かれ、前へと押し出される。咄嗟に地面に手をついたので転倒は免れた。すぐさま体勢を立て直し、トモノリのもとへ向かう。背筋を伸ばして、少し早足で。
 肩越しに一瞥した樹音たちは、路傍でひと塊になって留まっている。好奇心丸出しの下卑たにやけ笑いの裏には、トモノリへの警戒心が秘められているのだろう。彼と少しでも言葉を交わし、穏やかな性格と語り口を知った者ならば、馬鹿げている以外のなにものでもない態度だ。

 樹音たちにとっては罰ゲームでも、真理愛にとってはそうではない。
 その気づきが、足を速めさせる。苦行を早く終わらせたい気持ちの反映だと樹音たちは解釈したに違いない。そう思うと足はさらに加速し、今にも駆け出しそうな速度に達する。なかば膝蹴りをする形となったスクールバッグが音を立てて弾む。携帯電話で撮影しろと言われていたのを思い出し、足を緩めてバッグの中から取り出す。速度を上げる。

 二人の距離がゼロになった。

「湯田さん、君はあの子たちと――」
 真理愛はトモノリを両腕で抱きしめた。発言が止まった。作業服からは鉄と木と埃と土の匂いがした。それを肺いっぱいに吸い込み、耳元でささやく。
「トモノリ。わたし、あの女どもからいじめられているの。だから、憎んでる。復讐したい。殺したい。だから、協力して。頼れる友だちはトモノリしかいないから」
 間があった。発声に先立って口腔の唾を飲み込むためとも、発言内容を咀嚼するためともつかない、五秒にも満たない間が。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...