鏖の季節

阿波野治

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「トモノリを殺すなんて、そんなの、わたしには無理だよ。絶対に、絶対に、なにがあっても無理」
「クラスメイトは鏖にするつもりなのに?」
「同じじゃないよ。あいつらは殺しても構わない命だけど、トモノリはだめ。殺してって頼まれても殺したくない」
「それじゃあ、僕のわがままには付き合ってくれないんだね。……友だちなのに」

「友だちだからこそ、だよ。とにかく、わたしは嫌だ。トモノリを殺すなんて、そんなの、絶対に嫌だよ」
「つまり、拒否すると」
「うん。わたしは絶対にトモノリを殺さない。……失望した?」
「残念だとは思うけど、失望はしていないよ。そもそも、無理をしてでも目的を遂げようなんて思っていないから」

「えっ? じゃあ――」
「いや、自殺の意思までは捨てないよ。殺してもらえないなら、僕一人で勝手に死ぬだけの話だ。殺してもらえなかったのは残念だけど、でも仕方ないことなんだって納得しながらね。決行日はもちろん、今日だよ」

 どうにか食い下がり、翻意させたいと思うのだが、説得の文言は急速に枯渇しつつあった。
 トモノリになにを言っても無駄だ。話が通じない。
 真理愛は地団太を踏みたい気持ちだった。
 トモノリを殺したくない。死んでほしくない。その気持ちは強いはずなのに、わたしは早くも彼の命を諦めつつある……。

「わたしの意思がどうであれ、今日、この場で、絶対に死ぬつもり。そういうことだね?」
「そうだよ。その認識で正しいよ。百点満点だ」
「力づくで阻止すると言ったら?」
「不可能だろうね。僕は体格がいいわけではないけど、毎日体を使う作業をしているから、体力や腕力は確実に君よりも上だ。阻止しようと立ち向かってくる君を突き飛ばして、君が再び僕のもとにたどり着くよりも先に、作業服の内側に隠し持っているナイフで頸動脈を切り裂く。それでおしまいだ」

「じゃあ、トモノリが死んだらわたしも死ぬ、と言ったら?」
「僕の予想だと、君は多分、僕のあとは追わないんじゃないかな。だって君には、クラスメイトに復讐するという目標があるんだから」
「それは……」
「『わたしが死ぬからトモノリは死なないで』と言って、君のほうが先に死んでみせたとしても、残念ながら僕の意思は変わらないよ。君が死んだあとでゆっくりと死ぬだけだから」

 はったりを言っているわけではないのは声の抑揚でわかる。
 つまり、どう足掻いてもトモノリは死ぬ。今宵が命日になる。自らの手で自らを殺して死ぬか、真理愛の手で殺されて死ぬか、どちらになるかが現時点では未定なだけで。
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