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体が熱い。思考がままならない。本当にトモノリの命を救う道はないのか、暗中模索するために頭を働かせることができない。強引に思案を進めようとしても、熱がますます高まるだけ。肝心の思索は一向に前進せず、もどかしさのあまり全身をかきむしりたくなる。急勾配の坂道を転がり落ちるように自暴自棄になっていく。
トモノリがどうせ死んでしまうのなら。
殺すか、勝手に死ぬか、そのどちらかしか選べないのなら。
わたしが選びたいのは――。
「わかった。わかったよ、トモノリ。あなたを殺せばいいんだね」
「ああ、殺してくれ。ごめんね、迷惑をかけて」
だって、あなたがそれを望んだんでしょう。
そう言ってやりたかったが、にわかに込み上げてきた悲しみに喉が詰まる。追いかけるように目の奥が熱を帯びたが、涙がこぼれ落ちるのは阻止した。ただ、何度か洟をすすらずにはいられなかった。
未練があるんだ、と思う。
殺すと決意したくせに、明言したくせに、トモノリに生きてほしいと願っている。彼が死という状態に到達するその瞬間まで、その願いはわたしの念頭に居座りつづけるのだろうか?
「わたし、これまでにできた友だちはトモノリ一人だからわからないけど……。友だちを永遠に失うことになるのだとしても、友だちの望みを叶えてあげるのが、友だちとしての務めなの?」
「そうだよ。少なくとも、僕はそれが正しいと信じている。僕だって、これまでにできた友だちは君一人だから、説得力に欠けるかもしれないけど」
「『トモノリに死んでほしくない』っていうわたしの願いは、叶えてくれないんだね。……友だちなのに」
「天秤にかければ僕の願いのほうが重い、ということじゃないかな」
「わたしのほうが重いよ」
「これでは決着がつかないね。堂々巡りをしていては、いつまで経っても僕の願いは叶えられない。君がこれ以上ぐずるようなら、君に殺されるのを諦めて自殺しようと思う。急かして申し訳ないけど、湯田さん、そろそろ僕を殺してくれないか」
とうとうこらえ切れなくなり、一粒の雫が真理愛の頬を伝った。
トモノリに自殺を撤回する意思がないのはもはや疑いようがない。真理愛の力ではどう足掻いても覆せそうにない。
勝てない勝負を戦ってきたのだと思うと、どっと疲れが出た。
もういいや、と思う。
怠惰な諦め。どこか甘美な諦め。
殺そう。わたしの手で。
それがわたしの義務であり、使命なんだ。
トモノリがどうせ死んでしまうのなら。
殺すか、勝手に死ぬか、そのどちらかしか選べないのなら。
わたしが選びたいのは――。
「わかった。わかったよ、トモノリ。あなたを殺せばいいんだね」
「ああ、殺してくれ。ごめんね、迷惑をかけて」
だって、あなたがそれを望んだんでしょう。
そう言ってやりたかったが、にわかに込み上げてきた悲しみに喉が詰まる。追いかけるように目の奥が熱を帯びたが、涙がこぼれ落ちるのは阻止した。ただ、何度か洟をすすらずにはいられなかった。
未練があるんだ、と思う。
殺すと決意したくせに、明言したくせに、トモノリに生きてほしいと願っている。彼が死という状態に到達するその瞬間まで、その願いはわたしの念頭に居座りつづけるのだろうか?
「わたし、これまでにできた友だちはトモノリ一人だからわからないけど……。友だちを永遠に失うことになるのだとしても、友だちの望みを叶えてあげるのが、友だちとしての務めなの?」
「そうだよ。少なくとも、僕はそれが正しいと信じている。僕だって、これまでにできた友だちは君一人だから、説得力に欠けるかもしれないけど」
「『トモノリに死んでほしくない』っていうわたしの願いは、叶えてくれないんだね。……友だちなのに」
「天秤にかければ僕の願いのほうが重い、ということじゃないかな」
「わたしのほうが重いよ」
「これでは決着がつかないね。堂々巡りをしていては、いつまで経っても僕の願いは叶えられない。君がこれ以上ぐずるようなら、君に殺されるのを諦めて自殺しようと思う。急かして申し訳ないけど、湯田さん、そろそろ僕を殺してくれないか」
とうとうこらえ切れなくなり、一粒の雫が真理愛の頬を伝った。
トモノリに自殺を撤回する意思がないのはもはや疑いようがない。真理愛の力ではどう足掻いても覆せそうにない。
勝てない勝負を戦ってきたのだと思うと、どっと疲れが出た。
もういいや、と思う。
怠惰な諦め。どこか甘美な諦め。
殺そう。わたしの手で。
それがわたしの義務であり、使命なんだ。
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