鏖の季節

阿波野治

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「トモノリ、殺す道具は? シャベルで殴ればいいの? それとも、隠し持っているナイフを貸してくれるの?」
「君のために用意した工具を使うといい。いじめっ子たちを鏖にする練習のつもりでね。持ってくるよ」

 トモノリは小屋へと消えた。また涙が出そうになったが、下唇を強く噛んで封じ込める。成功すると、腹が決まったような実感をようやく覚えた。指で頬を拭ったが、早くも乾いている。
 トモノリが戻ってきた。握りしめているのは、金属製のハンマーと大振りのナイフ。

 真理愛はハンマーを受けとり、トモノリの右のこめかみを思いきり殴りつけた。
 鈍い音がした。手応えがあった。ありすぎた。
 殴られたほうは上体を折り、今にも膝を屈しそうだ。

 殴る前よりも低くなった後頭部を目がけて、凶器を振り下ろす。トモノリは俯せに地面に倒れた。成人男性である彼を暴力で圧倒しているのだと思うと、鳥肌が立った。全能感が総身を満たしている。バトルマンガの主人公のように、炎のようなオレンジ色のオーラをまとっているような気がする。
 実際の世界は相も変わらず闇だ。やっと慣れてきた目にもまだ暗い真夜中。その地面に、トモノリが這いつくばっている。
 自殺願望を持つ友だちは、まだ死んでいない。

 左手からナイフがこぼれている。腰を屈めて拾い上げ、靴先で脇腹をつつくと、トモノリは緩慢に半回転して仰向けになった。露わになった顔は、なにかを成し遂げた清々しさに包まれている。
 その顔を目がけて、刃を振り下ろす。生々しい手応えを感じた。刃は頬になかば埋もれながら滑り、きっさきが大地を掠める。反射的に傷口を押さえようとしたのか、右手が痙攣したように少し動いたが、それだけだった。大きく振りかぶり、左胸に刃を叩き込む。刀身の三分の二ほどが埋もれ、不明瞭な濁った呻きが口から飛び出した。トモノリはナイフを両手で押さえ、激しくもがく。真理愛の両手が柄から外れた。左右に半回転をくり返す彼の体は徐々に移動し――穴に落下した。

 底を覗き込む。地上よりも二メートルほど低い、一畳ほどの楕円形の空間のほぼ中央で、トモノリは胸にナイフを残して身じろぎ一つしない。その顔は、真上からだと安らかな寝顔にも見える。
 真理愛はシャベルを掴み、穴を埋めはじめた。血が飛び散っている地表を削って落とすことも忘れない。顔は後回しにしたが、その部分だけが露出するというのも、棺に納まる死者を連想させて切なく、工程のなかばほどに差しかかったところで方針を撤回した。半開きの口の中に土が入っても微動だにしない。魂はすでに肉体から離れたのだ。
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