鏖の季節

阿波野治

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 やけに白く見えるトモノリの顔がとうとう隠れた。真理愛は作業の手を少し速めた。
 一人分の墓穴を想定していたにしては、穴は深く掘られすぎている。トモノリは本心では、真理愛といっしょに死ぬことを望んでいたのだろうか? そうでなければ、潜在的に。

 作業の手が一時停止し、すぐに動き出す。
 興味深い議題だとは思うが、取り合わない。もう済んだことだからだ。なにより、仕事を片づけてしまいたい。かけがえのない友人を失った悲しみや喪失感は当然ある。しかし、それは意識の底をしめやかに走る細い流れに過ぎない。

 真理愛の心は、世界でただ一人の友人殺した直後にしては冷静だし、冷ややかだ。死の影響をそう強くは受けていない。掘り起こされた土を崩して穴に落としていく単調な作業が、沈着冷静さを堅持する手助けをするかのようだ。
 もっとも真理愛自身は、あと一歩のところで冷静になりきれないと感じていた。その一歩を消化したいと焦る気持ちから、シャベルを操る手はともすれば急いた。しかし性急さを自覚するや否や、即座にそれを是正した。故人への敬意を欠いている気がするからだ。

 遺体は順調に土に埋もれていき、やがて毛先すらも見えなくなった。
 以降の進行は早かった。穴が穿たれていた領域の高度が回りの地面に追いつき、ほんの少し追い越す。靴底で踏み固めるとほぼ同じになった。白日の下で眺めれば不自然な眺めなのだろうと思いながらも、これ以上作業をする気にはなれない。疲労は隠しがたく、完璧主義に徹するのは馬鹿馬鹿しい。

 シャベルを小屋の外壁に立てかけ、血に濡れた凶器を手に中に入る。壁を手探りして照明を灯す。言っていたとおり、手製の木台の上にいくつかの工具が置いてある。とても持ちきれる量ではなく、ナップザックでも持ってくればよかったと悔やまれた。使いやすそうなものを見繕って胸に抱え、明かりを消して小屋を出る。両手がふさがっていたのでドアは足で閉めた。

 埋葬が完了してしまえば、形だけのさよならを言うのも馬鹿馬鹿しくなるものなのだと、真理愛は知った。
 小屋に背を向け、トモノリが埋められている場所は一顧だにせずに歩き出す。
 蓄え込んだ肉体的疲労以上に、両手に抱えた数点の工具の総重量以上に、荷物が重たく感じられる。足取りは鈍く、靴底と地表がこすれる音が大きい。深更のしじまの中で響くその音は、孤独な人間の悲痛な哀願にも似ている。

 道に出たところで、今宵初めて空を仰いだ。月は雲の向こう側の世界に甘んじていて、光源としての役割を果たしていない。
 月が見ていなかったのだから完全犯罪だ、と思ってみる。
 完全犯罪というのは、言葉の響きほどよいものではないのかもしれない。そんな気がした。
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