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呼吸が落ち着くまで待って、真理愛はトイレから出た。
血しぶきは廊下にまで飛んでいた。暗いままならともかく、排泄しに来た者は間違いなく電気を点けるだろうから、もう待ち伏せ場所には使えない。足を使って遺体を中に押し込め、ドアを閉ざす。
和室を目指して廊下を進みながら、あと五人、と改めて思う。殺すべき人間はまだまだ多い。できれば和室に乗り込む前にもう一人くらい減らしておきたい。
最終コーナーの手前で足を止める。和室から出てきた者がトイレに向かう場合、角を曲がりきるまでは死角になる位置だ。ハンマーとナイフを持ち替え、息を殺す。
十分も待たずに、襖が開く音が聞こえた。いっときよりも緩んでいた緊張感が、最高潮時よりも頭一つ高まった。
足音は真理愛が待ち構える方角へと向かってくる。玲奈と同じく警戒心は感じられない。
何者かが角を曲がり、真理愛の視界にフレームインした。
刹那、一閃。
パジャマを紙切れのように切り裂き、胸と腕を傷つけた。斬撃を食らった衝撃に、被害者の体が一歩二歩と後退する。切られた左腕を押さえ、驚愕に双眸を瞠って真理愛を見つめるのは、花岡。
ナイフの柄を両手で握りしめる。両足を踏ん張って持ちこたえた花岡を目がけて、きっさきを先頭にしてタックルする。壁にぶち当たったような感触に遅れて、パジャマの柔らかな感触。花岡の口から不明瞭な短い叫び声が飛び出した。上体が引っ張られるように後ろにかたむき、仰向けに倒れる。真理愛は腹部に刺さったナイフを抜きとろうとしたが、滑って上手くいかない。舌打ち。ハンマーを右手に持ち替え、顔面に打ち下ろす。さらに三発を続けざまに打ち込んだところで、ハンマーの柄が手から抜けた。宙を飛び、床の上を回転しながら遠のいていく。花岡のパジャマで右手の血を拭い、今度こそナイフを抜く。上から体重をかけて押し込むようにして、刃を左胸に深々と突き刺す。
――あと四人。
ハンマーは和室の襖の前まで飛んでいた。
花岡との一戦では何度も物音を立ててしまった。緊張しながらハンマーへと歩み寄り、室内の気配に注意を凝らす。音を聞きつけた四人のいずれかが目覚めた、というわけではなさそうだ。ハンマーを回収し、今度こそ襖を開く。
布団は縦に二列に並べられている。手前は左から、もぬけの殻、佐久間。真ん中は、渡会、高宮。もっとも奥が、もぬけの殻、樹音。グループ内における地位的に、樹音と枕合わせの布団が玲奈だろうから、残る手前の一枚は必然に花岡だ。二階から持ち込んだ荷物が各人の枕元に置かれている。数はそう多くないから犯行の邪魔にはならないだろう。
理想を掲げるならば、四人が部屋から逃げ出さないうちに鏖にしたい。十秒ほど考える時間をとり、まずは佐久間の布団の前へ。
今日の佐久間はいろいろと癪に障る真似をしてくれた。これまでに佐久間から受けた被害は、他のメンバーと比べて甚大なわけではないが、四人の最初として選ぶのに彼女ほど適役はいない。左胸は掛け布団に保護されている。しゃがんで標的に近づき、頸部に刃を突き立てる。真横に動かして喉を掻き切る。
――あと三人。
血しぶきは廊下にまで飛んでいた。暗いままならともかく、排泄しに来た者は間違いなく電気を点けるだろうから、もう待ち伏せ場所には使えない。足を使って遺体を中に押し込め、ドアを閉ざす。
和室を目指して廊下を進みながら、あと五人、と改めて思う。殺すべき人間はまだまだ多い。できれば和室に乗り込む前にもう一人くらい減らしておきたい。
最終コーナーの手前で足を止める。和室から出てきた者がトイレに向かう場合、角を曲がりきるまでは死角になる位置だ。ハンマーとナイフを持ち替え、息を殺す。
十分も待たずに、襖が開く音が聞こえた。いっときよりも緩んでいた緊張感が、最高潮時よりも頭一つ高まった。
足音は真理愛が待ち構える方角へと向かってくる。玲奈と同じく警戒心は感じられない。
何者かが角を曲がり、真理愛の視界にフレームインした。
刹那、一閃。
パジャマを紙切れのように切り裂き、胸と腕を傷つけた。斬撃を食らった衝撃に、被害者の体が一歩二歩と後退する。切られた左腕を押さえ、驚愕に双眸を瞠って真理愛を見つめるのは、花岡。
ナイフの柄を両手で握りしめる。両足を踏ん張って持ちこたえた花岡を目がけて、きっさきを先頭にしてタックルする。壁にぶち当たったような感触に遅れて、パジャマの柔らかな感触。花岡の口から不明瞭な短い叫び声が飛び出した。上体が引っ張られるように後ろにかたむき、仰向けに倒れる。真理愛は腹部に刺さったナイフを抜きとろうとしたが、滑って上手くいかない。舌打ち。ハンマーを右手に持ち替え、顔面に打ち下ろす。さらに三発を続けざまに打ち込んだところで、ハンマーの柄が手から抜けた。宙を飛び、床の上を回転しながら遠のいていく。花岡のパジャマで右手の血を拭い、今度こそナイフを抜く。上から体重をかけて押し込むようにして、刃を左胸に深々と突き刺す。
――あと四人。
ハンマーは和室の襖の前まで飛んでいた。
花岡との一戦では何度も物音を立ててしまった。緊張しながらハンマーへと歩み寄り、室内の気配に注意を凝らす。音を聞きつけた四人のいずれかが目覚めた、というわけではなさそうだ。ハンマーを回収し、今度こそ襖を開く。
布団は縦に二列に並べられている。手前は左から、もぬけの殻、佐久間。真ん中は、渡会、高宮。もっとも奥が、もぬけの殻、樹音。グループ内における地位的に、樹音と枕合わせの布団が玲奈だろうから、残る手前の一枚は必然に花岡だ。二階から持ち込んだ荷物が各人の枕元に置かれている。数はそう多くないから犯行の邪魔にはならないだろう。
理想を掲げるならば、四人が部屋から逃げ出さないうちに鏖にしたい。十秒ほど考える時間をとり、まずは佐久間の布団の前へ。
今日の佐久間はいろいろと癪に障る真似をしてくれた。これまでに佐久間から受けた被害は、他のメンバーと比べて甚大なわけではないが、四人の最初として選ぶのに彼女ほど適役はいない。左胸は掛け布団に保護されている。しゃがんで標的に近づき、頸部に刃を突き立てる。真横に動かして喉を掻き切る。
――あと三人。
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