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自己紹介
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「外、暑かった? 歩いてきたんだよね」
「うん、徒歩で。まだ五月だし、暑いというほどではなかったかな」
「そっか。わたしが出歩いても平気な感じ?」
「……えっと」
木花は昨日、血を吐いて倒れた。病名はわからないが、きっと重い病気なのだろう。悪意のない言葉が彼女を傷つけてしまいそうで、怖い。どう答えようか迷っていると、
「ちょっと、フリーズしないで。そんなに真剣に考えなくてもいいのに」
木花が朗らかな声で言った。ほほ笑む一歩手前だった表情は、今やはっきりとしたほほ笑みに変わっていて、幼い印象はぐっと増した。見ているほうまでついつい表情を緩めてしまうような、愛らしくて魅力的な笑顔だ。
「突然のお願いだったのにちゃんと来てくれたし、君って真面目な人なんだね」
「真面目かどうかはわからないけど……。昨日あんなことがあったから、やっぱり心配で」
「迷惑、だったよね。あんな事態に巻きこまれたら、放っておくわけにはいかないから」
「そんなことないよ。困っている人を見かけたら助けるのは、当たり前だから」
「そうかもしれないけど、それをさらっと言えるって、すごいね」
「そうかな? 助けたと言っても、叫んで人を呼んだだけだから」
「充分すごいよ。うれしかったし、心から感謝してる。遅くなっちゃったけど、お礼を言わせて。昨日は助けてくれて、ほんとうにありがとうございました」
木花は深々とお辞儀をした。黒髪が滝のように垂れ落ち、顔が隠れた。礼儀正しい振る舞いに釣られて、凪も頭を下げる。
木花は首の角度を元に戻し、髪の毛を両手で左右に分けて顔を出した。凪からの視線に気がつき、ほほ笑みを再点灯させる。
「今、こうしてお礼を言ったり、笑顔になったりできるのも、すべて君のおかげ。岩永さんの話によると、君が助けてくれていなかったら危なかったそうだから、正真正銘命の恩人だね」
「血、すごかったもんね」
「掃除に時間がかかったって、岩永さんが愚痴ってたよ。看護師さんって普通、病人にかける言葉には気をつけるものだけど、岩永さんは厳しいこともずばずば言う人だから」
「そうなんだ。電話で話をした限りでは、そんな印象はなかったけど」
「長く付き合っていたら、見えなかったものも見えてくるんだろうね。……あ、そうだ。岩永さんで思い出したけど」
「どうしたの?」
「岩永さんから君の名前は聞いてるよ。根鈴凪くん、だよね。凪くん、って呼んでもいいかな」
「もちろんだよ。そういえば、木花さんの下の名前は?」
「七海だよ。七つの海と書いて、七海。下の名前を呼び捨てにしてほしいんだけど、だめかな?」
「ううん、そんなことない。七海って呼ばせてもらうね」
同年代の異性を下の名前で呼んだのは、これが初めてかもしれない。こみ上げてきた気恥ずかしさに、凪は頬を指でかく。
「ていうか、僕は呼び捨てなのに、七海はくんづけなんだ」
「うん。そうしたほうが個人的にはしっくりくるから。それとも、やっぱりお互いに呼び捨てにする?」
「ううん、それでいい。七海が呼びたいように呼んでくれれば」
「ありがとう。じゃあ、わたしは『凪くん』で、凪くんは『七海』。決定ね」
会話が途絶えた。
凪は次なる話題を見つけられない。それは七海も同じらしく、病室は沈黙で満たされた。ただし、気まずさはあまり感じない。
「うん、徒歩で。まだ五月だし、暑いというほどではなかったかな」
「そっか。わたしが出歩いても平気な感じ?」
「……えっと」
木花は昨日、血を吐いて倒れた。病名はわからないが、きっと重い病気なのだろう。悪意のない言葉が彼女を傷つけてしまいそうで、怖い。どう答えようか迷っていると、
「ちょっと、フリーズしないで。そんなに真剣に考えなくてもいいのに」
木花が朗らかな声で言った。ほほ笑む一歩手前だった表情は、今やはっきりとしたほほ笑みに変わっていて、幼い印象はぐっと増した。見ているほうまでついつい表情を緩めてしまうような、愛らしくて魅力的な笑顔だ。
「突然のお願いだったのにちゃんと来てくれたし、君って真面目な人なんだね」
「真面目かどうかはわからないけど……。昨日あんなことがあったから、やっぱり心配で」
「迷惑、だったよね。あんな事態に巻きこまれたら、放っておくわけにはいかないから」
「そんなことないよ。困っている人を見かけたら助けるのは、当たり前だから」
「そうかもしれないけど、それをさらっと言えるって、すごいね」
「そうかな? 助けたと言っても、叫んで人を呼んだだけだから」
「充分すごいよ。うれしかったし、心から感謝してる。遅くなっちゃったけど、お礼を言わせて。昨日は助けてくれて、ほんとうにありがとうございました」
木花は深々とお辞儀をした。黒髪が滝のように垂れ落ち、顔が隠れた。礼儀正しい振る舞いに釣られて、凪も頭を下げる。
木花は首の角度を元に戻し、髪の毛を両手で左右に分けて顔を出した。凪からの視線に気がつき、ほほ笑みを再点灯させる。
「今、こうしてお礼を言ったり、笑顔になったりできるのも、すべて君のおかげ。岩永さんの話によると、君が助けてくれていなかったら危なかったそうだから、正真正銘命の恩人だね」
「血、すごかったもんね」
「掃除に時間がかかったって、岩永さんが愚痴ってたよ。看護師さんって普通、病人にかける言葉には気をつけるものだけど、岩永さんは厳しいこともずばずば言う人だから」
「そうなんだ。電話で話をした限りでは、そんな印象はなかったけど」
「長く付き合っていたら、見えなかったものも見えてくるんだろうね。……あ、そうだ。岩永さんで思い出したけど」
「どうしたの?」
「岩永さんから君の名前は聞いてるよ。根鈴凪くん、だよね。凪くん、って呼んでもいいかな」
「もちろんだよ。そういえば、木花さんの下の名前は?」
「七海だよ。七つの海と書いて、七海。下の名前を呼び捨てにしてほしいんだけど、だめかな?」
「ううん、そんなことない。七海って呼ばせてもらうね」
同年代の異性を下の名前で呼んだのは、これが初めてかもしれない。こみ上げてきた気恥ずかしさに、凪は頬を指でかく。
「ていうか、僕は呼び捨てなのに、七海はくんづけなんだ」
「うん。そうしたほうが個人的にはしっくりくるから。それとも、やっぱりお互いに呼び捨てにする?」
「ううん、それでいい。七海が呼びたいように呼んでくれれば」
「ありがとう。じゃあ、わたしは『凪くん』で、凪くんは『七海』。決定ね」
会話が途絶えた。
凪は次なる話題を見つけられない。それは七海も同じらしく、病室は沈黙で満たされた。ただし、気まずさはあまり感じない。
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