レム

阿波野治

文字の大きさ
6 / 55

印象

しおりを挟む
 七海は体の向きを九十度回し、凪に横顔を見せた。そして、壁を見つめたり、天井を見上げたり、大きな窓越しに見える青空を眺めたりする。これまでに凪と交わした会話を頭の中で振り返りながら、次なる話題をのんびりと探している。そんな様子に見える。
 凪も七海の真似をして、病室の中を見回した。そして、あるものが目に留まった。

「あれは……」

 七海が「どうしたの?」という顔を凪に向けた。彼はベッドのすぐそばに置かれた、木製のキャビネットを指差す。天板の上にデジタル式の置き時計が置かれていて、それを色とりどりの折り鶴が囲んでいる。二十羽ほどあるだろうか。

「折り鶴、たくさんあるね。誰かからプレゼントされたの?」
「ううん。全部自分で折ったものだよ」

 白い歯がこぼれる。家事を手伝ったのを親から褒められた幼い子どものようなリアクションだ。

「病気が一番ひどかったころは、指が震えて力が入らなくて、自力で食事をとるのも難しくて。それを克服するトレーニングのために、ひまつぶしも兼ねて、売店で折り紙を買ってきて折るようになったんだ。始めたころは意識しなかったけど、神頼みをしたい気持ちもあったんだろうね。当たり前だけど、死にたくないし」

 七海の口ぶりは淡々としている。凪は重苦しい気持ちになったが、彼女の表情は決して暗くない。だからといって、無理をして明るく振る舞っているわけでもなさそうだ。

 大量の血を吐いて倒れて、体は細くて、顔は青白くて……。

 凪はこれまで、七海は弱い人間なのだと思ってきた。
 しかし、実際は正反対なのかもしれない、と考えが変わった。

「折り鶴、手にとってもいい?」

 凪の言葉に、七海は快くうなずく。椅子から腰を浮かして手を伸ばし、水色の一羽をやわらかく掴みとる。
 掌にのせ、じっくりと観察する。素人目には、とてもきれいに折られているように見える。

「すごいね、完璧な折り鶴だ。手先、器用なんだね」
「器用っていうか、たくさん折っているうちに自然と上達したって感じかな。でも、褒めてくれてありがとう」
「七海は謙遜したけど、上手だと思うよ。折りかたをちょっと間違えて変なところに折り目がついているとか、全然ないし。僕は不器用だから、がんばってもこんなにきれいには折れないよ」
「凪くんも折ってみる? ていうか、いっしょに折ろうよ」
「今ここで?」
「うん。遊びとしてはそんなに面白くないかもしれないけど、難しくないし、時間はかからないしね。なにより、わたしは凪くんと――あっ、いけない」
「どうしたの?」
「折り紙、今日は切らしているんだった。用意しておくから、今度来たときはいっしょに折ってよ、折り鶴」
「僕は手先が器用じゃないから、七海が折るのを見学したほうが面白いかも」
「だとしても、わたしは凪くんといっしょに折りたいよ。上手とか下手とか、そんなことはどうだっていいから、二人で同じことをしたいな」
「……七海」
「わたし、同い年くらいの子と共同作業したこと、入院してからはあまりないんだよね。この病院の入院患者、お年寄りばかりだから」

 七海の表情は少しくもったらしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

魔王様のお掃除奮闘記

鈴花
ホラー
サラリーマン佐田透は召喚に巻き込まれて魔王であるサタンと入れ替わってしまった。 休むはずの部屋には、足の踏み場もない程積み重なったゴミ。 あまりに汚すぎる魔王城を綺麗にしていたら、何故かあちこちから懐かれて!? 透は中身が人間だと気付かれずに元の身体に戻ることは出来るのか――? 小説家になろうの方にも投稿してます。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...