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日傘
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「病院のすぐ近くに大きな公園があってね」
長い廊下を、エレベーターがある方角に向かって、凪と七海は肩を並べて歩いている。許された時間はたっぷりとあるので、のんびりとした歩調だ。
「まだ病気がそんなに深刻じゃなかったころに、岩永さんに付き添ってもらって、何回か足を運んだことがあるの。お土産屋さんとか、大きな池とか、いろいろあって。長時間滞在したことはなくて、知らない場所はたくさんあるから、今日は楽しみにしてる」
「病院の前の道は通学路だから毎日通っているけど、大きな公園があるなんて知らなかったよ。脇道には全然入らないから」
「行ったことがないんだ。じゃあ、あれこれ話さないほうがいいね。ネタバレしちゃったら興ざめだから」
「いい場所なんでしょ? 行き先に選んだということは」
「うん、いい場所。近いからっていうのももちろんあるけど、仮にもう少し歩かなくちゃいけないのだとしても、行くことにしていたと思う。病院からは徒歩だと十分ちょいくらいかな」
病院の廊下は今日も人の姿がなく、静けさに満たされている。凪はあまり緊張を感じていない。同年代の異性と二人きりで遊びに行く。異性に縁がない彼には、字面を見ただけでも赤面しそうなシチュエーションなのに。
「七海ちゃん!」
ナースステーションの前を通り過ぎようとしたとき、声が飛んできた。カウンターの向こう側から、眼鏡をかけた若い女性がこちらを見ている。
「榛葉さん。こんにちは」
七海はにこやかに挨拶をした。顔見知りらしい。榛葉のほうへと歩いていくので、凪もついていく。
「どうしたんですか、そんなに大声出して」
「ああ、ごめん。平然と出歩いていたからびっくりしたんだけど、そうだ、そうだ。今日は外出できる日だったね」
「はい。橋がある公園まで行こうかと」
「ああ、あそこに。天気もいいし、うん、いいんじゃないかな。隣にいる男の子は誰?」
「おとといわたしを助けてくれた人です。第一発見者で、大声で叫んで助けを呼んでくれて」
「その話は聞いてる。そっか、この子がそうだったんだね。えっと、お名前は?」
「根鈴です」
「根鈴くん、ありがとうね。うちの大事な入院患者の命を救ってくださって」
凪はどう返事をしていいかわからなかったので、お辞儀をした。それを見た榛葉は浅くうなずき、視線を七海へと戻す。
「歳が近い男の子といっしょなら、私たちがお供するよりも楽しいし、なにかあったときも安心ね」
「はい。なんといっても、わたしを助けてくれた人ですから」
「うん、そうね。とにかく今日は――あっ、そうだ。ちょっと待って」
榛葉は席を立ち、小走りで奥へと遠ざかる。すぐに戻ってきたかと思うと、ナースステーションから出てきた。純白の傘を手にしている。
「はい、これ。日傘」
七海へと手渡す。
「それじゃあ、いってらっしゃい。どんな楽しいことがあったのかは、また次の機会に聞かせて。さあ、仕事仕事っと」
榛葉がナースステーションに戻ったのを見届けて、七海は「行こう」と促す。凪はうなずき、二人は歩き出す。
「榛葉さん、優しくていい人だね」
「うん。ここの人はみんな、優しくていい人たちばかりだよ」
エレベーターを待つ二人は、そんなやりとりを交わした。
それでは、七海は岩永看護師のことをどう思っているのだろう? 以前外出したときに付き添ってもらったと言っていたし、凪が助けを呼んださいには真っ先に飛んできた。彼としてはぜひ質問してみたかったのだが、
「ねえ、凪くんのことをもっと教えてよ。さっき通学路の話をしたけど、学校ではどんなふうに過ごしているの?」
七海が話題を替えたので、機会を逃がしてしまった。
長い廊下を、エレベーターがある方角に向かって、凪と七海は肩を並べて歩いている。許された時間はたっぷりとあるので、のんびりとした歩調だ。
「まだ病気がそんなに深刻じゃなかったころに、岩永さんに付き添ってもらって、何回か足を運んだことがあるの。お土産屋さんとか、大きな池とか、いろいろあって。長時間滞在したことはなくて、知らない場所はたくさんあるから、今日は楽しみにしてる」
「病院の前の道は通学路だから毎日通っているけど、大きな公園があるなんて知らなかったよ。脇道には全然入らないから」
「行ったことがないんだ。じゃあ、あれこれ話さないほうがいいね。ネタバレしちゃったら興ざめだから」
「いい場所なんでしょ? 行き先に選んだということは」
「うん、いい場所。近いからっていうのももちろんあるけど、仮にもう少し歩かなくちゃいけないのだとしても、行くことにしていたと思う。病院からは徒歩だと十分ちょいくらいかな」
病院の廊下は今日も人の姿がなく、静けさに満たされている。凪はあまり緊張を感じていない。同年代の異性と二人きりで遊びに行く。異性に縁がない彼には、字面を見ただけでも赤面しそうなシチュエーションなのに。
「七海ちゃん!」
ナースステーションの前を通り過ぎようとしたとき、声が飛んできた。カウンターの向こう側から、眼鏡をかけた若い女性がこちらを見ている。
「榛葉さん。こんにちは」
七海はにこやかに挨拶をした。顔見知りらしい。榛葉のほうへと歩いていくので、凪もついていく。
「どうしたんですか、そんなに大声出して」
「ああ、ごめん。平然と出歩いていたからびっくりしたんだけど、そうだ、そうだ。今日は外出できる日だったね」
「はい。橋がある公園まで行こうかと」
「ああ、あそこに。天気もいいし、うん、いいんじゃないかな。隣にいる男の子は誰?」
「おとといわたしを助けてくれた人です。第一発見者で、大声で叫んで助けを呼んでくれて」
「その話は聞いてる。そっか、この子がそうだったんだね。えっと、お名前は?」
「根鈴です」
「根鈴くん、ありがとうね。うちの大事な入院患者の命を救ってくださって」
凪はどう返事をしていいかわからなかったので、お辞儀をした。それを見た榛葉は浅くうなずき、視線を七海へと戻す。
「歳が近い男の子といっしょなら、私たちがお供するよりも楽しいし、なにかあったときも安心ね」
「はい。なんといっても、わたしを助けてくれた人ですから」
「うん、そうね。とにかく今日は――あっ、そうだ。ちょっと待って」
榛葉は席を立ち、小走りで奥へと遠ざかる。すぐに戻ってきたかと思うと、ナースステーションから出てきた。純白の傘を手にしている。
「はい、これ。日傘」
七海へと手渡す。
「それじゃあ、いってらっしゃい。どんな楽しいことがあったのかは、また次の機会に聞かせて。さあ、仕事仕事っと」
榛葉がナースステーションに戻ったのを見届けて、七海は「行こう」と促す。凪はうなずき、二人は歩き出す。
「榛葉さん、優しくていい人だね」
「うん。ここの人はみんな、優しくていい人たちばかりだよ」
エレベーターを待つ二人は、そんなやりとりを交わした。
それでは、七海は岩永看護師のことをどう思っているのだろう? 以前外出したときに付き添ってもらったと言っていたし、凪が助けを呼んださいには真っ先に飛んできた。彼としてはぜひ質問してみたかったのだが、
「ねえ、凪くんのことをもっと教えてよ。さっき通学路の話をしたけど、学校ではどんなふうに過ごしているの?」
七海が話題を替えたので、機会を逃がしてしまった。
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