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恐怖と異変
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七海のもとへ通うのが日課になって以来、初めてとなる感情が凪の胸に生まれていた。
病院に行くのが怖いのだ。
原因は、岩永月夜看護師。
病院で顔を合わせたら、また二人きりで話をすることになり、嫌な気持ちになるようなことを言われるかもしれない。七海からもらった折り鶴を台無しにされたように、自分の大切なものを傷つけられるかもしれない。そう想像するだけで、心も体も重苦しくなる。
岩永は「力」が使える。なにをしてくるのかわからない。だから、怖い。
それでも凪は自宅を発った。七海と会う約束をしているし、それに、岩永を恐れる気持ちよりも七海に会いたい気持ちのほうが強かった。
そしてもちろん、昨日の出来事があったあとで、心の中で立てた誓いを忘れたわけではない。
岩永が使う「力」から七海を守る――凪はそう誓ったのだ。
* * *
異変は605号室まで来たときに起きた。
というよりも、そこにあった。
「根鈴くん」
岩永看護師が病室の戸の前にいたのだ。凪を待っていたらしい雰囲気だ。
凪は一瞬全身がフリーズするほどの緊張感に襲われた。それでも、勇気を振り絞って岩永のもとまで歩を進めて話しかけた。
「岩永さん、どうされたんですか?」
「木花さんは別の病室に移ることになったの。根鈴くんが慌てるだろうから、教えようと思ってずっと待っていたんだけど」
「えっ……。移る……」
凪の関心は、岩永から七海へと瞬時に切り替わった。
彼は真っ先に、七海の病状が悪化したからこその処置ではないか、と疑った。それに続いて、それほど重要な変更があったのだから、事前に連絡してくれてもいいのに、という不満を抱いた。
「詳しい事情はまだ言えない。とりあえず、605号室の中で待っていてもらえるかな」
「会えるんですか?」
「申し訳ないけど、お願いね」
岩永は足早に去っていく。凪は遠ざかる背中を呆然と見送った。
病室の戸は閉ざされている。凪が知る限り、605号室の入口の戸が閉まっていたのはこれが初めてだ。
ためらいを感じながらも戸を開く。
七海の姿、昨日二人で折った折り鶴、ともに定位置にはいない。無人の病室は不気味なくらいに広く感じられる。少し迷ったが、病室の中に全身を入れた。
直後、戸が動く音がした。
息を呑んで振り向いた。開け放っていたはずの戸が、閉まっている。
「……おかしい」
病室の戸はひとりでに閉まるような作りにはなっていないし、周りには誰もいなかった。それなのに、閉まっているなんて。
病院に行くのが怖いのだ。
原因は、岩永月夜看護師。
病院で顔を合わせたら、また二人きりで話をすることになり、嫌な気持ちになるようなことを言われるかもしれない。七海からもらった折り鶴を台無しにされたように、自分の大切なものを傷つけられるかもしれない。そう想像するだけで、心も体も重苦しくなる。
岩永は「力」が使える。なにをしてくるのかわからない。だから、怖い。
それでも凪は自宅を発った。七海と会う約束をしているし、それに、岩永を恐れる気持ちよりも七海に会いたい気持ちのほうが強かった。
そしてもちろん、昨日の出来事があったあとで、心の中で立てた誓いを忘れたわけではない。
岩永が使う「力」から七海を守る――凪はそう誓ったのだ。
* * *
異変は605号室まで来たときに起きた。
というよりも、そこにあった。
「根鈴くん」
岩永看護師が病室の戸の前にいたのだ。凪を待っていたらしい雰囲気だ。
凪は一瞬全身がフリーズするほどの緊張感に襲われた。それでも、勇気を振り絞って岩永のもとまで歩を進めて話しかけた。
「岩永さん、どうされたんですか?」
「木花さんは別の病室に移ることになったの。根鈴くんが慌てるだろうから、教えようと思ってずっと待っていたんだけど」
「えっ……。移る……」
凪の関心は、岩永から七海へと瞬時に切り替わった。
彼は真っ先に、七海の病状が悪化したからこその処置ではないか、と疑った。それに続いて、それほど重要な変更があったのだから、事前に連絡してくれてもいいのに、という不満を抱いた。
「詳しい事情はまだ言えない。とりあえず、605号室の中で待っていてもらえるかな」
「会えるんですか?」
「申し訳ないけど、お願いね」
岩永は足早に去っていく。凪は遠ざかる背中を呆然と見送った。
病室の戸は閉ざされている。凪が知る限り、605号室の入口の戸が閉まっていたのはこれが初めてだ。
ためらいを感じながらも戸を開く。
七海の姿、昨日二人で折った折り鶴、ともに定位置にはいない。無人の病室は不気味なくらいに広く感じられる。少し迷ったが、病室の中に全身を入れた。
直後、戸が動く音がした。
息を呑んで振り向いた。開け放っていたはずの戸が、閉まっている。
「……おかしい」
病室の戸はひとりでに閉まるような作りにはなっていないし、周りには誰もいなかった。それなのに、閉まっているなんて。
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