レム

阿波野治

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二択

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「凪くん!」
 突然、七海が凪へと身を乗り出して大声を発した。
「一人ぶんのお金しかないんだったら、わたしを買って。気が合うわたしを買ったほうが、凪くんの人生はきっと充実するよ。だから、買ってよ」

 七海の声は、普段凪と過ごすときのように明るく、生き生きしている。対照的に、顔には表情というものがなく、そのギャップが彼を戸惑わせる。

「この子じゃなくて、私を買ってくれないかな」
 今度は岩永看護師が話しかけてきた。口調は淡々としていて、顔に浮かぶのは七海そっくりの無表情だ。
「あなたと木花さんを結びつけてあげたのは、他の誰でもない私よ。私を買えば、木花さんを買わなくても、実質的に木花さんを手に入れたようなもの。だから、私を買って」

 凪は助けを求めるように店主を見た。しかし、他人行儀な営業スマイルが返ってきただけだった。
 二人はもうなにもしゃべらない。二人の意見を参考に、凪が自分の意思で決めるしかないのだ。

 凪が買いたいと思っているのは、断然七海だ。一方の岩永は、「力」を使って七海を苦しめている。七海からもらった折り鶴を台無しにしたし、夢の中で七海を殺そうとした。親しみという意味では、圧倒的に七海が上だ。
 ただ、「私を買えば七海も手に入る」という岩永の発言は、とても魅力的に感じる。
 懸念は、あまりにも話が上手すぎることだろう。二人とも手に入ると言っているが、実際には一人も手に入らないような、そんな気がしてならない。

 凪は迷いに迷った末、先に欲しいと思ったほうを買うことにした。

「それでは七海を、若いほうの奴隷をください」
 そう告げて、七海を見た。

 視線が重なると、彼女は口角を吊り上げた。
 笑顔といえば笑顔なのだろう。しかし、選ばれたことを無邪気によろこんでいる様子ではない。

 凪ははっと息を呑み、今度は岩永の顔を見た。岩永の顔は、七海の顔に変わっていた。逆に、さっきまで七海だった顔は岩永の顔になっている。
 さっきまで岩永の顔だった七海の顔は、今にも泣き出しそうに歪んでいる。選ばれなかったことを悲しんでいる。

 僕はとんでもない過ちを犯してしまった!
 途方もないショックが凪を襲い、見る見る気が遠くなっていく――。

 
* * *


 目が覚めると、凪は七海の病室にいた。
 ベッド脇の丸椅子に座っている。窓外に広がる空の青さも、射しこむ午後の日射しの温かさも、眠りに落ちる前となに一つ変わらない。
 同じなのは、ベッドの上に七海がいることもそうだ。色とりどりの折り紙が散らばり、完成した折り鶴が何羽も置かれていることも。
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