レム

阿波野治

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夜へ向かう

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 世界は急速に夜に向かいつつあった。

 病院までの道のりを急ぐ凪の心を、不安と焦燥がさいなむ。二つの感情はゆっくりと、しかし着実に膨らんでいく。

 杞憂であってくれ。大好きな七海の笑顔が、行き着く先で待っていてほしい。
 今度こそ、僕が見た夢のすべてを打ち明けよう。七海には、彼女のすべてを教えてもらおう。僕に不都合な真実が明らかになることを、もう恐れはしない。七海なら、僕の心配性を明るく笑い飛ばしてくれる。きっとそうだ。

 T市民病院の前まで来た。
 足を止めた凪は、愕然として立ち尽くした。
 病院の建物が消えているのだ。

 建物がこの場所に存在していた痕跡すら見当たらないから、「取り壊された」ではなく「消えた」と表現するべきなのだろう。残っているのは、病院の敷地だった長方形の土地と、それを囲むレンガ造りのフェンス、そしてわずかばかりの植木のみだ。大きな建物がなくなると、敷地は実際の二倍も三倍も広く見えた。

 あまりにも非現実的な光景だ。

 いつ、誰が、なんの目的で病院を消したんだ? ほんの一・二時間前までたしかに存在していた建物を、跡形もなく消し去るなどいう離れ業が、現実的に可能なのか?

 無限に湧いてくるクエスチョンマークと格闘する中で、凪は気がつく。
 病院なんてどうでもいい。七海だ。七海はどこへ消えたんだ? 病院が消えたのだとしたら、病院で生きることを余儀なくされている彼女は、どうなってしまったんだ?

 凪はあたりを見回した。敷地の地面の中央に、巨大な穴がぽっかりと口をあけていた。薄暗さにまぎれていたとはいえ、すぐには気づかなかったのが不思議なくらいの大きさ、そして存在感だ。

 凪は口の中にたまった唾を飲みこみ、穴へと歩を進める。
 おぞましさ、近づきがたさは感じたが、それでも入ってみようと思った。病院の周りに、異変らしい異変はこの穴くらいしかない。穴に入れば、七海の行方のヒントが見つかる。きっとそうだ。

 穴の入口からはぬるい冷気が立ち昇っている。直径は五メートルほどで、緩やかな下り道になっている。凪は中に足を踏み入れた。
 道は直径を一定に保ちながら、奥へ、奥へと続いている。下り坂の角度は二十度ほどで、少し急になることもあれば、ほぼ水平になることもある。入口から見たときは真っ暗だったが、足元の様子くらいならば確認できるので、歩行に支障をきたすことはない。
 空洞はどこまでも続く。先は見えない。体の奥で大人しくしていた不安と焦燥が、またうごめきはじめた。

 ほんとうに、この先に七海はいるのだろうか。いないのだとしても、行き先に関するヒントは落ちているだろうか。……もしかして、これは罠なのか?
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