さようなら、空色。

阿波野治

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 熱烈なファンの力をもってしても調べが及ばない事柄もあるらしく、ところどころ空欄なのは嫌な予感がする。しかし、なにはともあれ、問題の話の情報が記載された場所まで画面をスワイプした。
 ソラが述べていたセリフを担当していたのは、Sという女性声優だった。大地は初めて聞く名前だ。

 Sの名前で検索をかけてみる。所属する事務所の公式サイトがヒットしたので、所属声優を紹介するページにアクセスする。プロフィールによると、今年二十歳になったばかりという若さだ。
 サンプルボイスが聴けるようになっていた。高鳴る鼓動を聞きながらイヤホンを準備し、深呼吸をしてから再生ボタンをタップする。

 流れ出した声は、あどけなさが感じられる甘ったるい高音で、男心を鷲掴みにする愛らしさが迸っている。ただ、媚びているような響きがあり、それが鼻につく者には鼻につくかもしれない。ローティーンの女子学生が、クラスメイトの男子の不躾な発言に痛烈に苦言を呈する、というシチュエーションのようだ。
 ソラも似たようなキャラクター、似たようなシチュエーションを演じていたが、聴いた印象は大きく違う。Sが演じる少女は、自由奔放で憎めない言動で周囲を振り回す、天真爛漫なキャラクターが想像される。対するソラが演じる少女は、しっかり者の性格で、幼稚さが抜けないクラスメイトに日々ため息をついている、といった人物が想起される。

 ソラと声優Sは明らかに別人だ。
 藁にもすがる思いで別のサンプルボイスも聴いたが、認識が強化されるだけの結果に終わった。

 ため息をつかずにはいられなかったが、スマホは投げ出さない。登場キャラクターの声優を網羅したファンサイトの存在を知ったことで、ソラの正体に迫る新たなる経路を見出したからだ。
 日本全国にある美術館に展示された鉱石と、鉱石に吹き込まれた声と吹き込んだ人物の情報、それらが確認できるウェブサイトがあるのでは?

 結論から言うと、あった。
 見つけた瞬間は心が躍った。それだけに失望は大きかった。展示された鉱石の声の人物として紹介されているのは、すでに名前が判明している人物だけ。番号を割り振られている鉱石には一ミリも触れられていないのだ。
 考えてみれば当たり前だ。美術館が調査しても分からなかったのだから、一介の愛好者が解明できるはずがない。

 ソラの正体を突き止める術は存在しない――。
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