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地平線に没するとともに迎える死を前に、ありったけの余力を振り絞って命を輝かせるように、西の空で太陽が赤々と燃えている。
菓子を食べた分だけ軽くなったリュックサックを背負ったレイは、足を止めて僕に向き直る。曽我家の門を潜ってすぐの地点でのことだ。
見送りのために彼女とともに外に出た僕は、虚を衝かれた思いがした。「そろそろお暇しようかな」と宣言してからのレイは、振る舞いが淡々としていて、曽我家には微塵も未練はないように見えたのに。
「どうしたの? 忘れ物でもした?」
僕が真っ先にそう問うたのは、レイの気持ちが帰宅に向いていると思いこんでいたからに他ならない。曽我家から去ることを望んでいるのに、うらはらな行動をとる理由は、咄嗟に考えた限りではその可能性しか思い浮かばなかった。
しかし、レイは頭を振った。
そして、しゃべろうとしない。ただちに帰ろうとしない理由を打ち明けるのを、明らかにためらっている。
僕は喉が詰まったような感覚を覚えた。息苦しくはないが、発声がままならない。気力を奮い立たせればなんとか、というところだが、あいにく適切な文言を見つけられない。
沈黙を破ったのは、僕ではなくレイだった。
「明日も来ていい?」
「え?」
「今日みたいな感じで、また曽我の部屋で曽我と二人で過ごしたいっていう意味。平日のこの時間帯、曽我のご両親は仕事に行っているんだったよね」
「うん。午後六時半くらいまでは帰ってこないよ」
「じゃあ迷惑はかけないね。……それとも、あたしといっしょだと楽しくなかった?」
僕は言下に頭を振った。
また、レイと二人きりで過ごしたい。一時間でも、いや半時間だって構わないから。
それが虚飾のない僕の本音だ。
「楽しかったよ。とても楽しかった。だから、またその機会があるなら、ぜひともって感じ。夕方は親もいないし、気兼ねなく遊びにきてよ」
「……いいの?」
「いいよ。全然構わない。今日はリュックサックが重たそうだったから、明日からはもう少し軽くしてきてよ。漫画はろくな手持ちがないけど、お菓子と飲み物なら用意できるから」
「そうだね。そうする。あたしも正直、持ってきすぎだと思ったし」
レイの口角に苦笑が浮かぶ。合意を得られて、緊張が緩んだからこそ浮かべられた笑みに見えた。
「どうせそんなに読めないもんね、一時間だと。菓子と飲み物、曽我にだけ負担を強いるのは悪いし、二人で分担して持ち寄るようにしない?」
「そうだね。それがいいと思う」
好意を抱いている人から一方的に好意を施されたり、逆に一方的に好意を施したりするよりも、平等の立場に立ったほうが喜びは大きいものだ。
あのときの僕は、まさにその喜びを感じていた。「それがいいよ」と答えた瞬間の表情の変化を見た限り、レイも僕と同じ気持ちらしい。
「曽我、じゃあね」
レイは「よいしょ」と小声を口にしてリュックサックを背負い直し、自宅へと消えた。
遠くで鳴らされた甲高いクラクションの音に我に返るまで、僕はその場に佇んで未来のことを考えていた。そのあいだ、目の端に夕焼けの赤を絶えず感じていた。
永遠に沈まないような気がした。そう錯覚していたかった。
菓子を食べた分だけ軽くなったリュックサックを背負ったレイは、足を止めて僕に向き直る。曽我家の門を潜ってすぐの地点でのことだ。
見送りのために彼女とともに外に出た僕は、虚を衝かれた思いがした。「そろそろお暇しようかな」と宣言してからのレイは、振る舞いが淡々としていて、曽我家には微塵も未練はないように見えたのに。
「どうしたの? 忘れ物でもした?」
僕が真っ先にそう問うたのは、レイの気持ちが帰宅に向いていると思いこんでいたからに他ならない。曽我家から去ることを望んでいるのに、うらはらな行動をとる理由は、咄嗟に考えた限りではその可能性しか思い浮かばなかった。
しかし、レイは頭を振った。
そして、しゃべろうとしない。ただちに帰ろうとしない理由を打ち明けるのを、明らかにためらっている。
僕は喉が詰まったような感覚を覚えた。息苦しくはないが、発声がままならない。気力を奮い立たせればなんとか、というところだが、あいにく適切な文言を見つけられない。
沈黙を破ったのは、僕ではなくレイだった。
「明日も来ていい?」
「え?」
「今日みたいな感じで、また曽我の部屋で曽我と二人で過ごしたいっていう意味。平日のこの時間帯、曽我のご両親は仕事に行っているんだったよね」
「うん。午後六時半くらいまでは帰ってこないよ」
「じゃあ迷惑はかけないね。……それとも、あたしといっしょだと楽しくなかった?」
僕は言下に頭を振った。
また、レイと二人きりで過ごしたい。一時間でも、いや半時間だって構わないから。
それが虚飾のない僕の本音だ。
「楽しかったよ。とても楽しかった。だから、またその機会があるなら、ぜひともって感じ。夕方は親もいないし、気兼ねなく遊びにきてよ」
「……いいの?」
「いいよ。全然構わない。今日はリュックサックが重たそうだったから、明日からはもう少し軽くしてきてよ。漫画はろくな手持ちがないけど、お菓子と飲み物なら用意できるから」
「そうだね。そうする。あたしも正直、持ってきすぎだと思ったし」
レイの口角に苦笑が浮かぶ。合意を得られて、緊張が緩んだからこそ浮かべられた笑みに見えた。
「どうせそんなに読めないもんね、一時間だと。菓子と飲み物、曽我にだけ負担を強いるのは悪いし、二人で分担して持ち寄るようにしない?」
「そうだね。それがいいと思う」
好意を抱いている人から一方的に好意を施されたり、逆に一方的に好意を施したりするよりも、平等の立場に立ったほうが喜びは大きいものだ。
あのときの僕は、まさにその喜びを感じていた。「それがいいよ」と答えた瞬間の表情の変化を見た限り、レイも僕と同じ気持ちらしい。
「曽我、じゃあね」
レイは「よいしょ」と小声を口にしてリュックサックを背負い直し、自宅へと消えた。
遠くで鳴らされた甲高いクラクションの音に我に返るまで、僕はその場に佇んで未来のことを考えていた。そのあいだ、目の端に夕焼けの赤を絶えず感じていた。
永遠に沈まないような気がした。そう錯覚していたかった。
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