僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

文字の大きさ
27 / 77

27

しおりを挟む
「大変だね。ほんとうに大変な人に大変っていうのも失礼だけど、あたしはその、語彙が貧困だから……」
「そのくらいで気を悪くなんてしないよ」
「思ったんだけど、曽我は受験勉強中なわけだよね。高卒認定試験。受験生に雑務を強要するって、親御さんもなかなか厳しいんだね」
「庭の草刈りはまあ、家族全員の義務みたいなものだからね。僕としては、最初から仕方ないっていう認識だったけど、厳しいといえば厳しいのかな。
 親がそういう態度をとるようになったのは、やっぱり、留年までしたのに高校を辞めちゃったのが大きいと思う。高校は私立で学費も高かったのに、無駄にしちゃったから。迷惑をかけたんだから、その分家族のために働けよっていう」
「……そっか」

 レイは押し黙る。眉間に生じたしわを見て、こんな話をするんじゃなかった、と悔やむ気持ちが芽生えた。
 ……巻きこんでしまった。レイと過ごす夕方の一時間は、彼女に嫌な思いをさせるためにあるわけではないのに。
 そう、今は夕方の五時過ぎ。
 レイは約束の時間になったからこちらまで来たのだ。こうして陰気な言葉をやりとりしているあいだにも、砂時計の砂は落ちつづけている。――急がないと。

「進藤さん、ごめん。草刈り、今日中に済ませておかないと怒られるから、大至急片づける。二十分くらいかかるかな。それまで、悪いけど先に部屋に行って待ってて」
「あたしも手伝う。二人でやったら半分の十分で済む。そうしたほうが絶対にいい」
 思いがけない返答だった。
 僕を見つめるレイの眼差しは、真っ直ぐだ。どぎまぎしてしまい、すぐには言葉を返せなかったくらいに真っ直ぐだ。有無を言わさない迫力さえ感じる。

「いや、でも、悪いよ。遊びにきてくれた友だちに手伝わせるなんて。疲れるし、汚れるし」
「草刈りなんだから、疲れるのも汚れるのも当たり前。道具、貸して」
 僕はうなずいて家の中に入った。軍手と鎌を渡し、さっそく作業に取りかかる。
 進藤さんの手を煩わせるのは嫌だし、申し訳ないから、さっさと終わらせてしまおう。
 そんな思いとはうらはらな行動を、草刈り再開早々に僕は起こす。

「進藤さんとは、顔を合わせたときは普通に話をしていたから、意外に思うかもしれないけど……。進藤さんとは同じクラスになったことがないから、噂でしか聞いたことがないと思うけど……。僕、昔から人前でしゃべるのにすごく苦労してて」
 自らの身の上について語り出したのだ。
 我ながら、驚くべき行動だと言わざるを得ない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

秘密のキス

廣瀬純七
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

名称不明なこの感情を表すために必要な2万文字。

春待ち木陰
青春
 高校一年生の女の子である『私』はアルバイト先が同じだった事から同じ高校に通う別のクラスの男の子、杉本と話をするようになった。杉本は『私』の親友である加奈子に惚れているらしい。「協力してくれ」と杉本に言われた『私』は「応援ならしても良い」と答える。加奈子にはもうすでに別の恋人がいたのだ。『私』はそれを知っていながら杉本にはその事を伝えなかった。

処理中です...