僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

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「そんな進藤さんと、一時間だけでもいっしょにいられるのは、とてもうれしいことだよ。迷惑どころか、むしろ大歓迎。エゴを押し通そうとしているだとか、そんなふうには考えないで、どうぞ僕をいいように利用してって感じ。……長くなっちゃったけど、僕の意見は以上だよ」
「曽我は――」

 レイの口から静かに言葉があふれ出す。秘めておくつもりだった想いを、我慢しきれなくなって解き放ったかのように。

「あたしと過ごす時間、最初はぎこちなさがあったけど、だんだんリラックスしてきたように見えた。だからひと安心というか、むちゃくちゃ迷惑をかけているわけじゃない、という思いはあったんだよ。
 でも正直、曽我の心の中まで考えたことはほとんどなかったかもしれない。あたしは人付き合いがそんなに得意じゃないから、どうしても自分のことで精いっぱいになっちゃうんだろうね。
 だから、曽我の考えが聞けてなるほどって思ったし、思いのほか好意的に捉えてくれているんだって分かって、率直に驚いた。曽我ってけっこう熱いやつじゃん、っていう発見もあったし」
「熱い? そうかな。そんなつもりはないけど」
「ていうか曽我、あんた、ほんとに人としゃべるのが苦手なの? 普通にどころか、かなりしゃべってるよね」
「誰とでもではないよ。親ですら話しにくいなって思うこと、しょっちゅうあるし。進藤さんだからこそ、ここまでしゃべれてるんだよ」
「ほんとに? それは光栄だ。……ねえ曽我、明日からもいつもの時間に来てもいい?」
「もちろん。お菓子と飲み物、用意して待ってるよ」

 レイが指摘したとおり、あのときの僕はほんとうによくしゃべったと思う。ありのままの自分というものがあるなら、明らかにそれからは逸脱していた。普通ではなかった。
 でも、思う存分話せて、レイとたくさんの言葉をやりとりできて、心から楽しかったし、心からよかったと思っている。

 よかったのは、長きにわたる会話のあと、いつものように漫画を読み、ゲームで遊び、菓子とジュースを飲み食いし、無駄話をするという、いつもどおりの過ごしかたができたこともそうだ。
 今回の件で、僕たちの関係に根本的な変化が起きたわけじゃない。今までみたいな日々が、今日も、明日も、ずっとずっと続いていくんだ。
 そう確信できたのが、もしかすると、その日の僕の、いや僕たちの、最大の収穫だったのかもしれない。

 永遠なんていうものは、この世界に存在するはずもないのだけど。
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