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昔からそうだった。
トラウマとなる体験をしたわけではない。物心ついたときからずっと、人としゃべるのが怖くて、苦手意識があって、人前に出ると極度の緊張から固まってしまった。そんな経験が重なるにつれて、恐怖感と苦手意識は高まっていき、人としゃべるシチュエーション積極的に避けるようになった。病気を治そうとする努力を放棄した、と表現してもいいかもしれない。
小学生になっても、中学生になっても、症状が改善することはなかった。
だからこそ、三度の不登校を経験し、高校を自主退学し、半ひきこもりのニートをやっている今の僕がある。
「そんな人間が大学へ行ったとして、卒業できると思う? 就職したとして、末永く勤められると思う? 絶対に無理だよ。そんなことは、やってみるまでもなく分かりきったことだ。
それなのに、両親はどちらかを選べと迫る。
第三の道――ようするに、今みたいに無為な暮らしを送ることはもう許されない。僕ももう十八歳だしね。第四の道を模索したけど、見つけられなくて。
そこで、本題に戻るわけだけど」
少し上体を乗り出し、いっそう深くレイの瞳を見つめる。
「『そんなことを訊かれても……』って思うかもしれないけど、僕もどうしていいか分からなくて、本気で困っているから、進藤さんの知恵を貸してほしいんだ。
僕が選ぶべきなのは、進学? 就職? それとも、それ以外の道がある? いずれかの道に進んだ場合、僕はどんな心構えをしておけば、重すぎるハンデを抱えながらでも選んだ道をまっとうできる?
それを、進藤さんに教えてほしいんだ。
自分でも厚かましいお願いだって思う。だけど、ほんとうに、ほんとうに、分からなくて困っているんだ。自分の人生がかかっているから、藁にも縋りたいんだ。だから、このとおり、お願いします……!」
僕は床に額がつくくらい深く頭を下げた。気持ちが昂るあまり、とる予定のない行動をとっていた。
頭を下げたまま、心の中で十を数えた。
レイはなんのリアクションも示してくれない。さらに十を数えたが、対応に変化は見られない。
我慢は早々に限界を迎え、顔を上げた。少し眉をひそめたレイと目が合った。見つめ合う時間が数秒流れ、彼女は眉間のしわを深めて顔を背けた。
終わりの予感とでも呼ぶべきものが、電流のように胸を走り抜けた。見捨てられた、と思った。あまりの狂おしさに、シャツの左胸を鷲づかみする。いつの間にか、服は少し汗ばんでいた。鼓動は案の定駆け足で、天井知らずに足を速めていく気配を孕んでもいる。
終わった。
僕は間違ってしまった。
そして、掛け違えたボタンはもう二度と元には戻せない……。
押し寄せた黒い絶望に圧倒され、思考が攪拌され、次第に混沌と化していく。その速度に、僕は恐怖感さえ覚えた。まばたきを二度したときには、すでに土俵際まで追い詰められていた。片足が土俵の外に出ようとした、そのとき、
レイが顔を上げて僕を直視した。
トラウマとなる体験をしたわけではない。物心ついたときからずっと、人としゃべるのが怖くて、苦手意識があって、人前に出ると極度の緊張から固まってしまった。そんな経験が重なるにつれて、恐怖感と苦手意識は高まっていき、人としゃべるシチュエーション積極的に避けるようになった。病気を治そうとする努力を放棄した、と表現してもいいかもしれない。
小学生になっても、中学生になっても、症状が改善することはなかった。
だからこそ、三度の不登校を経験し、高校を自主退学し、半ひきこもりのニートをやっている今の僕がある。
「そんな人間が大学へ行ったとして、卒業できると思う? 就職したとして、末永く勤められると思う? 絶対に無理だよ。そんなことは、やってみるまでもなく分かりきったことだ。
それなのに、両親はどちらかを選べと迫る。
第三の道――ようするに、今みたいに無為な暮らしを送ることはもう許されない。僕ももう十八歳だしね。第四の道を模索したけど、見つけられなくて。
そこで、本題に戻るわけだけど」
少し上体を乗り出し、いっそう深くレイの瞳を見つめる。
「『そんなことを訊かれても……』って思うかもしれないけど、僕もどうしていいか分からなくて、本気で困っているから、進藤さんの知恵を貸してほしいんだ。
僕が選ぶべきなのは、進学? 就職? それとも、それ以外の道がある? いずれかの道に進んだ場合、僕はどんな心構えをしておけば、重すぎるハンデを抱えながらでも選んだ道をまっとうできる?
それを、進藤さんに教えてほしいんだ。
自分でも厚かましいお願いだって思う。だけど、ほんとうに、ほんとうに、分からなくて困っているんだ。自分の人生がかかっているから、藁にも縋りたいんだ。だから、このとおり、お願いします……!」
僕は床に額がつくくらい深く頭を下げた。気持ちが昂るあまり、とる予定のない行動をとっていた。
頭を下げたまま、心の中で十を数えた。
レイはなんのリアクションも示してくれない。さらに十を数えたが、対応に変化は見られない。
我慢は早々に限界を迎え、顔を上げた。少し眉をひそめたレイと目が合った。見つめ合う時間が数秒流れ、彼女は眉間のしわを深めて顔を背けた。
終わりの予感とでも呼ぶべきものが、電流のように胸を走り抜けた。見捨てられた、と思った。あまりの狂おしさに、シャツの左胸を鷲づかみする。いつの間にか、服は少し汗ばんでいた。鼓動は案の定駆け足で、天井知らずに足を速めていく気配を孕んでもいる。
終わった。
僕は間違ってしまった。
そして、掛け違えたボタンはもう二度と元には戻せない……。
押し寄せた黒い絶望に圧倒され、思考が攪拌され、次第に混沌と化していく。その速度に、僕は恐怖感さえ覚えた。まばたきを二度したときには、すでに土俵際まで追い詰められていた。片足が土俵の外に出ようとした、そのとき、
レイが顔を上げて僕を直視した。
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