僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

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「そうだったんだ。でも、書いて発散するのは気乗りがしない、みたいな反応だった気がするんだけど」
「あれは照れ隠しみたいなもの。心の中では、早くその方法を試してみたくてうずうずしていたよ」
「……そっか。あたしの言葉が、曽我の進路を決めるきっかけになったんだね。たった一つの体験から、方向性を決めちゃうのか。上手く言えないけど、なんていうか、すごいね」

 レイの顔は静かな感動に輝いている。軽蔑や呆れといった、僕に否定的な感情はいっさい観測できない。
「すごくないよ。むしろ安直なんじゃないかなって思うけど」
「ううん、そんなことない。だって大学まで受けて、合格しちゃうんだよ。それって、その場の勢いだけでは絶対に無理なことでしょ。曽我はそれをやれたんだから、すごいよ。文句なしにすごいと思う」

 こちらが戸惑ってしまうくらいの熱弁だ。
 気圧されながらも、うれしかった。合格を勝ちとった自分を卑下するような発言は慎もうと思った。
 芸術大学の印象や期待、受験勉強の苦労などについて、僕は話した。僕は合格した喜びと受験モードから解放された爽快感、レイはささいなきっかけから目標を見出し、結果を出した僕を称賛する気持ちがあるから、話はとても盛り上がった。積極的にしゃべっている自分も、聞き役に回っているレイも、普段とは少し違う人間になったみたいだった。

 しかし、これが本題ではないのだ。
 大学合格も伝えたいことの一つではあるが、もっとも伝えたいことではない。

「進藤さん。話は変わるんだけどね」
 僕はベッドから下りて床に正座し、声を少し落として話頭を転じた。レイは目を丸くして僕を見返した。読んでいる漫画を手にしたままで。
「ずっと前から進藤さんに伝えかったことがあるんだ。それはね」

 レイが息を呑んだのが分かった。
 僕の鼓動は秒刻みにテンポを加速させていく。このままだと、破裂してしまうかもしれない。
 だから、その前に言ってしまおう。 

「君のことが好きだ。僕の恋人になってください。お願いします……!」
 頭を下げる。一、二、三と、心の中で数えて、それから角度を戻した。レイの顔から表情が消えていた。目が離せなくなった。

 レイは僕から視線を逸らし、唇をもどかしげにうごめかせた。僕はまばたきすらできない。
 二人は沈黙する。静寂は永遠に続いていきそうだ。しかし、そんなものはしょせん、まやかしに過ぎない。そうあってほしいという、僕の身勝手な願望が生み出したあさましい錯覚だ。
 レイはおもむろに手にしていた漫画を床に下ろし、頭を下げた。

「ごめんなさい」
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