わたしと姫人形

阿波野治

文字の大きさ
79 / 91

灰島ナツキ その11

しおりを挟む
 帰宅後、インターネットでアンドロイドについて調べてみた。様々なメディアから関連情報を得る中で、偏見は次第に払拭されていった。ユーザーから高い評価を受けている商品はかなりの高額になるが、貯金をつぎこめばなんとか手が届きそうだ。
 ハードルはむしろ、種類の豊富さにあった。老若男女、髪型、体型、さらには性格や口癖や嗜好まで。ありとあらゆる項目を購入者自ら指定でき、組み合わせは実質的に無限といってもいい。求めるパートナー像を明確にしない限り、いつまで経っても決められそうにない。

 わたしが欲する、パートナー。

 最初は、大人の男性がいいかな、と漠然と考えていた。父親は幼いころに家を出て行き、現在は年上のミクリヤ先生に好意を寄せている。女性の異性愛者として、性的な欲望を満たしたい、という下心ももちろんある。ただ、肉欲のはけ口としての利用を前提に購入するのは後ろめたかったし、たとえアンドロイドだとしても、年上と生活をともにするのは不安がある。

 自分よりも年齢が下。
 その枠の中で候補を探しているうちに、友人としてだけではなく、もう一つの重要な意味を持たせられる存在がいることに、やがて気がついた。

 子どもだ。
 彼らは無垢なよき友人であると同時に、他者の庇護を必要とする存在だ。わたしは人間が怖いが、購入しなければならない商品のためなら店員に話しかけられる。人で賑わうショッピングモールに足を運ぶことも厭わない。子どものためなら、しなければいけないのにやらなかったことも、きっとできる。その積み重ねが、真の独り立ちのための糧になってくれるはずだ。独り立ちをしなければならない期限を迎えるまではそう長くないが、必ずや間に合わせられるはずだ。 

 目鼻立ちはこんな感じがいい、性格はこうあるべきだと、あれこれ思いを巡らせている時間は楽しかった。まぎれもなく幸福だった。わたしのもとに届いた姫は、期待を裏切らなかった。紆余曲折あったが、彼女と過ごす時間はおおむね満足がいくものだった。
 しかし、姫は壊れた。
 彼女の手術費用を捻出する力は、わたしにはない。


* * *


 母親相手にいくら偉そうなことを言っても、暴言を吐いても、わたしは結局、一人ではなにもできない。
 そんな人間が、誰かの親になんて、なれるはずもなかった。
 姫とともに過ごした五日間には、いったいなんの意味があったのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...