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阿澄 十
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高梨との放課後の戯れを終えて帰宅すると、リビングにはたいてい水無斗がいる。彼はランドセルを下ろすと、自室ではなくリビングで菓子を食べながら、両親から買い与えられた『マイモン2』で遊ぶのを毎日の楽しみにしていた。
またそのゲームか、と阿澄は鼻で笑う。
『マイモン2』には合計四百種類ものモンスターが登場するという。そのすべてを捕獲することに躍起になっている弟を、阿澄は見下していた。いくらエンカウント率が低かろうが、入手方法が煩雑だろうが、根気強くプレイすれば誰でも全種類手に入れられる。そんなゲームのなにが面白いのだろう?
高梨創介との戯れが日常と化したのを機に、きょうだいの距離は開きつつあった。
***
このころから阿澄は、万事を冷ややかに見る癖がつき、特に自分よりも劣ったところを持つ同性を能動的に嘲笑するようになった。
たとえば、テレビや雑誌で自分よりも胸が小さい女性を見ては、モデルのくせに、タレントのくせに、と内心でせせら笑う。
たとえば、道で擦れ違った若い女性のコーディネートを観察しては、だせぇ、恥ずかしくないのかよ、などと心の中であざ笑う。
たとえば、不器量なクラスメイトの女子から話しかけられても無視する。
国宝級のブスのくせに、あたしと同列だとでも思っているの? ああ、うざい、うざい。とんだ勘違い女! ブサイク菌がうつるから気安く話しかけんなよ、ブサイク。死ねよ、ばーか。
本心を声に出さないのは、相手を傷つけたくないからでも、報復されるのが怖いからでもなく、阿澄の美意識に適う対応だからに他ならない。ただし、その対応に難癖をつけられた場合には、一頭の獰猛な獣となって反撃に転じた。
必然に阿澄は孤立した。
しかし、彼女には高梨がいる。放課後の小一時間、禁忌的ゆえに愉快な遊戯の時間が確約されている。
春の嵐はとうの昔に過ぎ去った。台風が日本列島に上陸するにはまだ早すぎる。彼女が性の愉楽を知ってからというもの、季節はずっと透明な汗が煌めく夏のままだ。
***
高梨から宿題が出された。交流の中断を余儀なくされる夏休みのあいだ、所定のウェブサイトにアップされている動画を見て知識をたくわえ、練習して技術を磨いておくように、とのお達しだ。
教えられたURLにアクセスすると、悪趣味なデザインのアダルトサイトが表示された。数ある動画の中から、サムネイルとタイトルの組み合わせが気になったものを再生してみる。
前置きの茶番を見たときは期待外れの予感も過ぎったが、いざ本番がはじまると目も意識も釘づけになった。まばたきすらも抑えて見入り、我に返ったときには汗だくだった。部屋の冷房をつけ忘れていたのだ。
遅まきながらエアコンを点け、本番シーンを再視聴しながら自慰に勤しんだ。映像と音声は期待どおり阿澄の気持ちを昂らせた。有線イヤホンでの視聴だったが、隣り合った自室で『マイモン2』で遊んでいるはずの水無斗に大音量で聞かせてやりたいと思った。
『モンスターはちょうど三百七十匹捕まえたよ。全部で四百体だから、コンプリートまであと少しなんだ』
弟は最近そう話していた。
『三百七十? へえ、たくさん捕まえたんだね。お姉ちゃんが今までしたオナニーの数もそれくらいかな。水無斗はどうなの?』
へらへら笑いながらそう言ってやりたかった。
またそのゲームか、と阿澄は鼻で笑う。
『マイモン2』には合計四百種類ものモンスターが登場するという。そのすべてを捕獲することに躍起になっている弟を、阿澄は見下していた。いくらエンカウント率が低かろうが、入手方法が煩雑だろうが、根気強くプレイすれば誰でも全種類手に入れられる。そんなゲームのなにが面白いのだろう?
高梨創介との戯れが日常と化したのを機に、きょうだいの距離は開きつつあった。
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このころから阿澄は、万事を冷ややかに見る癖がつき、特に自分よりも劣ったところを持つ同性を能動的に嘲笑するようになった。
たとえば、テレビや雑誌で自分よりも胸が小さい女性を見ては、モデルのくせに、タレントのくせに、と内心でせせら笑う。
たとえば、道で擦れ違った若い女性のコーディネートを観察しては、だせぇ、恥ずかしくないのかよ、などと心の中であざ笑う。
たとえば、不器量なクラスメイトの女子から話しかけられても無視する。
国宝級のブスのくせに、あたしと同列だとでも思っているの? ああ、うざい、うざい。とんだ勘違い女! ブサイク菌がうつるから気安く話しかけんなよ、ブサイク。死ねよ、ばーか。
本心を声に出さないのは、相手を傷つけたくないからでも、報復されるのが怖いからでもなく、阿澄の美意識に適う対応だからに他ならない。ただし、その対応に難癖をつけられた場合には、一頭の獰猛な獣となって反撃に転じた。
必然に阿澄は孤立した。
しかし、彼女には高梨がいる。放課後の小一時間、禁忌的ゆえに愉快な遊戯の時間が確約されている。
春の嵐はとうの昔に過ぎ去った。台風が日本列島に上陸するにはまだ早すぎる。彼女が性の愉楽を知ってからというもの、季節はずっと透明な汗が煌めく夏のままだ。
***
高梨から宿題が出された。交流の中断を余儀なくされる夏休みのあいだ、所定のウェブサイトにアップされている動画を見て知識をたくわえ、練習して技術を磨いておくように、とのお達しだ。
教えられたURLにアクセスすると、悪趣味なデザインのアダルトサイトが表示された。数ある動画の中から、サムネイルとタイトルの組み合わせが気になったものを再生してみる。
前置きの茶番を見たときは期待外れの予感も過ぎったが、いざ本番がはじまると目も意識も釘づけになった。まばたきすらも抑えて見入り、我に返ったときには汗だくだった。部屋の冷房をつけ忘れていたのだ。
遅まきながらエアコンを点け、本番シーンを再視聴しながら自慰に勤しんだ。映像と音声は期待どおり阿澄の気持ちを昂らせた。有線イヤホンでの視聴だったが、隣り合った自室で『マイモン2』で遊んでいるはずの水無斗に大音量で聞かせてやりたいと思った。
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弟は最近そう話していた。
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へらへら笑いながらそう言ってやりたかった。
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