台風と金木犀

阿波野治

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阿澄 十四

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 天気予報は日本列島に台風が接近していると伝えている。
 阿澄は何日も前から台風のニュースを見ている気がした。台風はこのままずっと南シナ海にとどまりつづけ、最後の審判の日までニュースで取り上げられつづけるのかもしれない。

 セックスは週一回と約束した翌日から、阿澄は体調不良に悩まされていた。常時ほのかに頭痛がして、倦怠感に全身を侵され、胃が重苦しいのだ。
 その日阿澄は、週一で課せられた義務をさぼる意味も兼ねて、最寄りの総合病院で診察を受けることにした。
「先生。今日は病院に行かなきゃいけないから、もう帰るね」
 そう伝えると、高梨はなぜか狼狽した。なにかを恐れているらしいが、何度問い質してもはっきりしない。これ以上顔を見たくなかったので、ごちゃごちゃとなにか言っているのを無視して帰宅した。

 病院で診察を受けたい旨を母に伝え、保険証と金を受けとって家を出る。待合室のテレビでは、ワイドショーの時間帯だというのに、台風のニュースばかり延々と流れていたのが印象に残った。診察室で医師に症状を伝えると、簡単な質疑応答を経て、検査を受けることになった。
 人生経験が浅い阿澄は最悪の未来を想像した。不安と戦いながら、医師や看護師からの指示に従って検査をこなした。
 そして妊娠が発覚した。


***


 帰り道は風が強かった。南シナ海に長らくとどまっていた台風はようやく重い腰を上げたらしい。それとも、無闇やたらに強いだけの無関係の風なのか。
 たしかなのは、阿澄が胸に抱えている大問題と比べれば、そよ風に等しいということ。
 父が会社から帰宅するのを待って、両親に検査結果を伝えた。事実を隠蔽するという選択肢も頭を過ぎったが、そうするのもなにか面倒くさかった。だから、そうした。

 決断の決め手となったのは、二・三年前に阿澄の自室にゴキブリが出現した一件を思い出したこと。
 不快感が具現化したような醜悪なその昆虫を、彼女は最初無視しようと考えた。しかし生かしておけば、この先ずっと同居する羽目になる。部屋のドアを開け放しておけばいつか出て行ってくれるかもしれないが、出て行った事実をこの目でたしかめないと安心できない。
 だったら退治しようと意を決し、筒状に丸めたファッション雑誌を武器に、死闘の末にゴキブリを始末したのだった。
 種の違いはあるが、人間の場合もそれと同じだ。
 命の種という気持ち悪い虫は、早めに処分してしまおう。早めに処分してしまうに越したことはない。先送りにしたところで、どうせ逃れられないし、向き合わなければならないし、戦わなければならないのだから。
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