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水無斗 二
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夏休みを目前に控えた夕方、阿澄が幽霊のようにリビングに現れてソファに腰を下ろした。
そのソファに陣取って『マイモン2』で遊んでいた水無斗は、軽く狼狽してしまい、危うくゲーム機を取り落とすところだった。
母がパートへ行っているあいだ、彼はテレビが観られるリビングで過ごすことが多い。だから姉が自室から出るのは、省略できない用事があるときだけだと把握している。
阿澄が一階でこなす用事といえば、入浴することと、キッチンで飲食物を調達すること。しかし今回はどちらでもないらしく、しかも先客がいるリビングのソファに座った。
久しぶりに間近で見た姉は、いくらか痩せたようだ。そのせいか、実寸よりもいっそうボリュームが感じられる胸を、ブラジャーをつけずにシャツ一枚で隠すというファッションは、ひきこもる以前と変わらない。リラックスしているらしく表情は柔和だ。ただ、朗らかに笑いながら暴力を振るう人でもあったと、少し身構える。
そんな弟を、阿澄は顔から表情を消して見つめる。
緊迫感を孕んだ沈黙に耐えきれなくなり、「お姉ちゃん、どうしたの?」と尋ねようとすると、いきなり抱き寄せられた。
一瞬、頭が真っ白になった。追いかけるように、全身が熱くなった。二の腕に押しつけられた豊かな膨らみのせいだ。
「水無斗、あたし、今日でひきこもるのはやめるから。……うれしい?」
水無斗の肩にあごをのせ、ささやくように問う。ぎりぎりくすぐったくない程度の吐息を耳朶に感じた。
姉の変調を強く気にかけていた彼としては、もちろんうれしい。ただ、喉がからからに渇いていて一言もしゃべれない。
「お姉ちゃんにキスして。頬じゃなくて、唇に。そうしたら、もうひきこもらないよ。でもしてくれなかったら、どうしようかな」
自分からキスをする度胸はない。しかし、そのせいで阿澄が再びひきこもってしまったら、後悔する。絶対に後悔する。
板挟みにあって対応に窮し、身じろぎ一つできずにいると、いきなり胸を思いきり突かれた。
ソファに仰向けになった水無斗に、阿澄は猛然と覆いかぶさって唇を重ねた。圧力はそう強くはなく、三秒ほどで離れた。
姉は自分の体ごと弟の体を起こし、笑いかける。先ほどまで浮かべていた無表情からは一転、明るく屈託のない阿澄らしい笑顔。
「じゃあ、今日からひきこもるのはやめるね」
二人はテレビを観ながら菓子を食べた。阿澄はずっと弟に体を密着させていたので、咀嚼音が常に耳もとにあった。ひきこもる以前とは違い、無意味に弟を叩いてはこなかったが、ゆっくりと意味深に、服の上から体をなぞることが何回かあった。
仕事から帰宅した母は、部屋の外で弟と仲睦まじくしている阿澄を見て、絶句していた。
阿澄は母から話しかけられてもろくに返事をせず、それどころか見向きもしないで、水無斗との戯れに耽った。
夕食の一時中断を挟み、水無斗が入浴を済ませて自室に引き取るまで、阿澄はずっとリビングに居座ってその態度を崩さなかった。
そのソファに陣取って『マイモン2』で遊んでいた水無斗は、軽く狼狽してしまい、危うくゲーム機を取り落とすところだった。
母がパートへ行っているあいだ、彼はテレビが観られるリビングで過ごすことが多い。だから姉が自室から出るのは、省略できない用事があるときだけだと把握している。
阿澄が一階でこなす用事といえば、入浴することと、キッチンで飲食物を調達すること。しかし今回はどちらでもないらしく、しかも先客がいるリビングのソファに座った。
久しぶりに間近で見た姉は、いくらか痩せたようだ。そのせいか、実寸よりもいっそうボリュームが感じられる胸を、ブラジャーをつけずにシャツ一枚で隠すというファッションは、ひきこもる以前と変わらない。リラックスしているらしく表情は柔和だ。ただ、朗らかに笑いながら暴力を振るう人でもあったと、少し身構える。
そんな弟を、阿澄は顔から表情を消して見つめる。
緊迫感を孕んだ沈黙に耐えきれなくなり、「お姉ちゃん、どうしたの?」と尋ねようとすると、いきなり抱き寄せられた。
一瞬、頭が真っ白になった。追いかけるように、全身が熱くなった。二の腕に押しつけられた豊かな膨らみのせいだ。
「水無斗、あたし、今日でひきこもるのはやめるから。……うれしい?」
水無斗の肩にあごをのせ、ささやくように問う。ぎりぎりくすぐったくない程度の吐息を耳朶に感じた。
姉の変調を強く気にかけていた彼としては、もちろんうれしい。ただ、喉がからからに渇いていて一言もしゃべれない。
「お姉ちゃんにキスして。頬じゃなくて、唇に。そうしたら、もうひきこもらないよ。でもしてくれなかったら、どうしようかな」
自分からキスをする度胸はない。しかし、そのせいで阿澄が再びひきこもってしまったら、後悔する。絶対に後悔する。
板挟みにあって対応に窮し、身じろぎ一つできずにいると、いきなり胸を思いきり突かれた。
ソファに仰向けになった水無斗に、阿澄は猛然と覆いかぶさって唇を重ねた。圧力はそう強くはなく、三秒ほどで離れた。
姉は自分の体ごと弟の体を起こし、笑いかける。先ほどまで浮かべていた無表情からは一転、明るく屈託のない阿澄らしい笑顔。
「じゃあ、今日からひきこもるのはやめるね」
二人はテレビを観ながら菓子を食べた。阿澄はずっと弟に体を密着させていたので、咀嚼音が常に耳もとにあった。ひきこもる以前とは違い、無意味に弟を叩いてはこなかったが、ゆっくりと意味深に、服の上から体をなぞることが何回かあった。
仕事から帰宅した母は、部屋の外で弟と仲睦まじくしている阿澄を見て、絶句していた。
阿澄は母から話しかけられてもろくに返事をせず、それどころか見向きもしないで、水無斗との戯れに耽った。
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