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人がいない世界
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イナはやがて不意に、先ほどから人気がまったく感じられないことに気がついた。
今日は十月にしては暑い日だから、窓が開いている建物も多いはずだ。住宅やその他の建物の前を通ったさいに、話し声や足音や物音が漏れ聞こえてもおかしくない。開いていなかったとしても、人がいる気配くらいならば外からでも感じとれるものだ。
それなのに、物音も人気もまったく観測できない。五分歩いても、十分歩いても。十軒、十五軒と建物の前を通っても。
イナのスニーカーの靴底は歩道に貼りついて動かなくなる。
まさか、と思う。自分らしくない心配性を笑い飛ばしたかった。
しかし、なぜだろう、笑えない。
率直に心境を述べるならば、嫌な予感がする。
イナは再び歩き出す。足は自ずと急いた。短縮時間が三十秒にも満たないような近道を通り、大通りに出た。
景色を一目見た瞬間、イナは絶句した。
通行人と車、どちらも見かけないのだ。
大通りに向かう道中、走行音などはまったく聞こえてこなかったから、もしかしたら、という思いはあった。しかし、本当に一人も歩いていないし、一台も走っていないとは、夢にも思わなかった。
界隈では最も交通量が多い幹線道路だ。秘密基地に行くさいに利用することが多く、普段から人・車両ともに往来が盛ん、という情報は把握している。まったくのゼロというのは、どう考えてもおかしい。
五分ほど、その場に突っ立って待ってみたが、誰も通らない。
恐怖や不安はある。しかし、心の芯は奇妙なくらいに落ち着いている。心臓はいつもよりも少し強く鼓動を刻んでいるが、テンポ自体はほぼいつも通り。発汗量の増加や頬の紅潮、四肢の震えなど、身体的な異変は現れていない。
寝ている間に世界に起きた変化をどう説明すればいいのかを、イナは漠然とではあるが理解していた。
「さてと」
強いて声に出し、歩き出す。
やがて反対側の歩道にコンビニを発見した。信号を無視して車道を横断する。渡り始めた直後は緊張し、忙しなく左見右見してしまったが、十歩も歩かないうちにまったく気にならなくなった。
駐車場には車が二台停まっている。白い軽トラック、黒いセダン。両台とも車窓越しに覗き込んでみたが、どちらも無人だ。
店内にも人の姿はない。客も、店員も。わざわざトイレの中まで確認したが、やはり誰もいなかった。
回れ右をして店を出る。清らかな秋の風に頬に感じながら、やっぱりそうか、と思う。
もう間違いない。動かしようがない。疑いようがない。
地球上から人類が消え去ったのだ。
眠る直前の願いが現実と化したのだ。
これが夢か現実なのかは考えない。考える必要がそもそもない。
なぜなら、イナが待ち望んでいた世界が実現したのだから。
今日は十月にしては暑い日だから、窓が開いている建物も多いはずだ。住宅やその他の建物の前を通ったさいに、話し声や足音や物音が漏れ聞こえてもおかしくない。開いていなかったとしても、人がいる気配くらいならば外からでも感じとれるものだ。
それなのに、物音も人気もまったく観測できない。五分歩いても、十分歩いても。十軒、十五軒と建物の前を通っても。
イナのスニーカーの靴底は歩道に貼りついて動かなくなる。
まさか、と思う。自分らしくない心配性を笑い飛ばしたかった。
しかし、なぜだろう、笑えない。
率直に心境を述べるならば、嫌な予感がする。
イナは再び歩き出す。足は自ずと急いた。短縮時間が三十秒にも満たないような近道を通り、大通りに出た。
景色を一目見た瞬間、イナは絶句した。
通行人と車、どちらも見かけないのだ。
大通りに向かう道中、走行音などはまったく聞こえてこなかったから、もしかしたら、という思いはあった。しかし、本当に一人も歩いていないし、一台も走っていないとは、夢にも思わなかった。
界隈では最も交通量が多い幹線道路だ。秘密基地に行くさいに利用することが多く、普段から人・車両ともに往来が盛ん、という情報は把握している。まったくのゼロというのは、どう考えてもおかしい。
五分ほど、その場に突っ立って待ってみたが、誰も通らない。
恐怖や不安はある。しかし、心の芯は奇妙なくらいに落ち着いている。心臓はいつもよりも少し強く鼓動を刻んでいるが、テンポ自体はほぼいつも通り。発汗量の増加や頬の紅潮、四肢の震えなど、身体的な異変は現れていない。
寝ている間に世界に起きた変化をどう説明すればいいのかを、イナは漠然とではあるが理解していた。
「さてと」
強いて声に出し、歩き出す。
やがて反対側の歩道にコンビニを発見した。信号を無視して車道を横断する。渡り始めた直後は緊張し、忙しなく左見右見してしまったが、十歩も歩かないうちにまったく気にならなくなった。
駐車場には車が二台停まっている。白い軽トラック、黒いセダン。両台とも車窓越しに覗き込んでみたが、どちらも無人だ。
店内にも人の姿はない。客も、店員も。わざわざトイレの中まで確認したが、やはり誰もいなかった。
回れ右をして店を出る。清らかな秋の風に頬に感じながら、やっぱりそうか、と思う。
もう間違いない。動かしようがない。疑いようがない。
地球上から人類が消え去ったのだ。
眠る直前の願いが現実と化したのだ。
これが夢か現実なのかは考えない。考える必要がそもそもない。
なぜなら、イナが待ち望んでいた世界が実現したのだから。
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