すばらしい新世界

阿波野治

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 リーフはイナの分身であり、従属的な立場だ。
 真相を知らないのではなく、「イナのためを思って」という、身勝手な動機からあえて隠しているのでは?
 そんな疑惑が浮上したせいで、公園を後にした二人の間にはぎくしゃくとした空気が流れていた。もっとも、そう感じているのはイナだけらしく、リーフは澄ましたような横顔を見せながら主人の隣を歩いている。

 ぼくはリーフの心の中は全然分からないのに、リーフはぼくの心を読めるなんて、ずるい。
 嫉妬の兆しと呼ぶべき炎は、リーフを仰ぎ見る目つきを鋭利にさせた。ただ、その思いも読みとられているのだと思うと、言葉に変換して対象にぶつけるのも馬鹿馬鹿しい気がして、熱は冷めた。

 イナはとうとう黙り込んだ。イナのしゃべりたくない気持ちを察したらしく、リーフは主人の沈黙には言及せず、ただ歩調を合わせる。互いが思うところあっての沈黙だから、気まずい。
 しかしその雰囲気は、大きな橋に差しかかったところで一変する。

「わー、でかい橋だ! すげーな」

 橋が対象に見えて、その実、川の雄大さにイナは魅了された。それが吉野川だということは、見た瞬間に悟った。真摯に勉学に励んだことがないイナでも、徳島県で一番大きな川は吉野川だと知っている。袂に設置された看板に記された橋の名称は、

「四国三郎橋、だって。だっさ! 名前、クソださっ! 田舎者丸出しのセンスだ」
「なにか元ネタがあるのかもしれませんね。私には見当もつきませんが」

 十分弱ぶりに二人の間に会話が生まれた。リーフの声は滑らかで、見えざる指で何度なぞっても、ざらつく箇所はどこにもない。

「だとしても、ださいことに変わりないよ。ドン引きレベルでださい」
「イナだったらなんと名づけますか? 命名権を与えられたのだとしたら」
「んー、どうしようかな。やっぱりスケールは大きくいきたいから、『徳島世界一大橋』とかでいいんじゃない」
「いいですね。世界一、とてもいいと思います」
「それ、適当に言ってない? 本当にいいって思った?」
「思いましたよ。イナはこの世界の神なのだから、世界一という言葉ほど相応しいものはない。違いますか?」
「なるほどね。上手いこと言うじゃん」
「お褒めいただいて光栄です。それでは、渡りましょう。徳島に存在する世界一の橋を」

 イナは頷き、普段よりも少し広い歩幅で先頭を行く。リーフの足音が従順に追随する。和解はいとも容易く成立したのだ。
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