すばらしい新世界

阿波野治

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 右隣で足音が止まった。穴を介して川を見下ろすイナは、笑みの表出を抑え込めない。こちらを向いた顔に、片方の口角を吊り上げてみせると、リーフも微笑みを点灯させた。

「できましたね、イナ。完璧です」
「でしょ? コツはよく分かったから、ちょっと楽しくなりそうかも。壊しながら渡ろっと」

 有言実行、イナは橋に次から次へと穴をあけ始めた。
 最初は四角い空洞を垂直方向に貫通させるだけだったのが、円形や三角形、さらには星型や、雲を思わせる歪な楕円など、複雑な形をあけられるようになった。さらには、斜めに穿ったり、次の穴をあけるまでのインターバルが短くなったりと、上達の速度は加速していく。正円や正方形に近い比較的単純な形状であれば、完成形を脳裏に浮かべるまでもなく、穿ちたい場所を凝視するだけで目的を果たせるようになった。
 破竹の勢いで熟練し、高いクオリティで思い通りになるようになると、イナとしても浮かれてくる。無闇に大きな穴をあけたり、進路の邪魔になるような場所にいきなり穴を出現させたりと、リーフを驚かせることを意図して破壊を実行するようになった。

 リーフの反応は、ことごとくイナの希望に沿うものか、イナの予想をいい意味で裏切る興味深いコメントを発信するか、そのどちらかに二分された。どちらに転んでも、上機嫌なイナには愉快に感じられて、自らが創出した穴に負けないくらい大きく口をあけて笑った。なにをしても、リーフが律義に反応を返してくれるのが快かった。

 イナはいささか唐突ながら、反町直人の存在を思い出した。
 彼とやりとりをするさいも、言葉のキャッチボールが長く続いたケースに限っていえば、高い確率で心地よさを感じた。ただ直人は、イナが触れないでほしいと思っていることにも平気で言及する。それがせっかくの快い気分を台無しにする場合も、少なからずあった。
 一方のリーフはそれがない。引っかかる言葉があっても、見直してみればなんでもなかったり、自分かリーフの指でさっと均せば簡単に滑らかになったりする、程度のささくれに過ぎない。

 直人との関係は――悪友と腐れ縁、どちらの言葉で表したほうがより正確なのかは定かではないが、少なくとも――顔見知り以上友人未満止まりだった。
 真の友人とは、リーフのような存在のことを指すのだろう。

 久しぶりに旧世界の個人を思い出したことで過ぎった感傷は、今を楽しみ尽くしたいという強烈の欲求の前にあっという間に埋没した。

 戯れてばかりいたので、橋を渡りきるまでに無闇に時間がかかってしまった。
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