すばらしい新世界

阿波野治

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河原

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 大きく見渡せば代わり映えのしない、ディティールに注意を凝らせば一つとして同じ瞬間のない日々が、曜日感覚を日ごとに奪いながら流れていく。

「……飽きた」
 いつもと変わらぬ曇天の下、田んぼに面した道路に寝ころがったイナは、おもむろに呟いた。

 現在、イナのそばにリーフはいない。「トイレ行ってくれば」と言って、一時的に追い払っている。
 イナでさえももう十日間も排泄していないのだから、イナの空想力が生み出した存在であるリーフに、その行為が宿命づけられているはずがない。しかし、いくら友だちが相手といえども、一人きりになりたい気分のときもある。そんなときに使っている一手が「トイレ行ってくれば」だった。

 リーフを物理的に遠ざけてから本音を吐くやりかたは、イナの心を読める彼女には通用しないと百も承知している。それでも呟かずにはいられないほど、音声に変換した思いは切実だった。

 そう、飽きた。
 思い通りになることが圧倒的に多いが、思い通りにならないこともないわけではないこの世界を、破壊活動を行いながら逍遥することに、飽きた。

 
* * *


 現状に倦んだ自分に気がつくたびに、決まって思い出す光景がある。

 新世界で暮らし始めて四日目の昼下がり、二人は川に行き当たった。川幅は決して狭くないが、河原がいたずらに広いため、水流は相対的にみすぼらしく見える。水質は濁ってはいないが澄んでもいない。全体的に冴えない雰囲気で、家族連れや若者がバーベキューをしているイメージは湧かない。
 それでもイナはリーフを促し、ありあわせの鉄材を組み合わせて構築したような階段を下って、河原へと下りた。人間の不在はイナにとってマイナスではないし、なにより、河原で思う存分遊びたい気持ちは隠せない。

「この川、なんていう名前だろう。吉野川ではないよね?」

 下り立っての第一声がそれだった。リーフは前者の問いに首を傾げ、後者の問いに頷いた。看板などが出ていないかを目だけで探したが、川の名前が書かれたものはどこにも見当たらない。もしかすると、川で遊びたい気持ちがご都合主義的に出現させた、旧世界には実在していない川なのかもしれない。

 イナは気を取り直して、下流に向かって歩き始めた。河原は大きな石はなく、道に起伏が乏しいため歩きやすい。刺激を求めているイナにからすれば面白味がなく、興ざめだ。川の中にも、河原の石の下や植物の陰にも、生き物の姿は期待できないから、とことん面白くない。
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