すばらしい新世界

阿波野治

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バス

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「でも、ちょっと運転はしてみたいかも。外国製のはちゃめちゃなゲームみたいに、時速二百キロで飛ばして、街灯とか通行人とかを薙ぎ倒したり跳ね飛ばしたりしてみたい! ま、どこを通っても人はいないんだけど」
「神らしく、運転は人任せにして、のんびりと景色を眺めるのも悪くないと思いますが」
「でも、自分の手で殺したり壊したりしたほうが、やっぱり興奮するでしょ? 銃で撃ち殺すよりもナイフで刺したほうが、人を殺した実感をより強く得られる、みたいな。リーフはナイフの使い手だから、共感してくれるよね?」
「実感という意味では、たしかにそうですね。イナのおっしゃる通りです。ただ、殺しやすさという意味では、圧倒的に銃器ではないでしょうか」
「あっ、やっぱり? リーフに銃で戦ってほしい気持ちはあるけど、ぼく、銃なんて触ったことないからよく分かんないんだよね」
「私が愛用しているようなナイフを使ったこともありませんけどね。イナが使用したことがあるナイフは、カッターナイフのみだったはずです」
「よく知ってるね。ぼくも使いたいんだけどね、サバイバルナイフみたいなごついの。ああいうのをかっこよく扱えたら最高なんだけどなー」

 大仰に言うならば、破壊の美学、とでも呼ぶべきものについて語り合っていると、遠くからクラクションの音が聞こえた。一台のバスが停留所へと近づいてくる。ボディが赤に近いピンクと白の二色に塗られた、日本全国どこででも走っていそうな路線バスだ。
 車内に積み込んだ壊れ物に配慮するかのようにゆっくりと減速し、二人の前で停車。空気が抜けるような音とともに乗車口のドアが開かれる。イナは顎をしゃくってリーフを先に乗らせ、自らも続く。

 車内はバスのサイズに見合った常識的な広さで、清潔感が上質な香水のように漂っている。座席の代わりに黒革のソファが数脚置かれ、観葉植物が鮮やかな緑を広げている。他には、自動販売機、マガジンラック、動物のぬいぐるみ。雰囲気はどことなく病院の待合室を思わせる。

「お座りください、イナ」

 目の前のソファを手で示してリーフがすすめる。車内のほぼ中央、フロントガラス越しに進行方向の景色が見える、特等席じみた一席だ。
 言われた通りにすると、リーフも近くのソファに座った。それを合図にドアが閉まり、バスが走り出した。

 イナは特等席の地の利をさっそく活用し、運転席を覗き込んでみた。ちょうど大きなカーブを曲がるところだったのだが、運転席は無人で、誰も握っていないハンドルがもっともらしく動いている。ひやりとして車窓越しに外を見たが、バスは問題なく曲がりきった。

 視線をフロントガラスへと転じる。バスは車線に沿って生真面目に走行していて、走行速度は速くも遅くもない。当然のことながら、イナが現在乗っている一台以外に走行している車両はないので、身の危険はまったく感じない。向かう方角も、母方の祖父母宅があるのと同じ方角だ。目的地に無事に着くか否かの問題は、心配するだけ時間の無駄だろう。
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