すばらしい新世界

阿波野治

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少女再び

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 イナは席を立ち、車内をうろうろし始めた。
 路線バスの車内らしくない車内には驚かされたが、個々の備品は平凡だ。唯一常識から逸脱しているのが自販機で、自販機で販売されるものとしては一般的ではない飲食物の数々が販売されている。骨つきのローストチキン、広島風お好み焼き、はち切れんばかりにりんごが詰まったアップルパイ――どれもイナの好物だ。

「リーフ、なにか食べようぜ。移動中はどうせ暇だし。なにがいい?」
「イナが好きなものがいいです。私にとっても好物なので」
「いいね、単純明快で。じゃあ、いつもみたいにちょっとずつ満遍なく食べよう。ちょうどおやつの時間だし、スイーツ縛りでいこうかな。ちょっと待ってて」

 一般的な自販機のように商品の値段が明記されているが、イナは一円も持っていない。仮に所持していたとして、なぜ神が金を払わなければいけないのか。

「おらっ」

 力任せに側面を蹴飛ばす。内部でなにかが次々と落下する音がして、取り出し口の透明の扉越しに、先ほどまでは存在しなかったものが見え透いた。扉を開けると、自販機で販売されている商品の数々だ。スイーツを中心に、和洋中の料理やジャンクフード、さらには飲み物もある。ケーキなどの柔らかい菓子も中にはあったが、神の力の賜だろう、落下の衝撃で型崩れしたものは一品もない。

「リーフ、食べよう。運ぶの手伝って」

 二人がかりで、ソファの前のガラス製ローテーブルまで食べ物を運ぶ。カスタードクリームがぎっしり詰まったシュークリーム、鳴門金時のスイートポテト、バナナクレープ。二人は車窓越しの景色にお義理程度に言及するなどしながら、食べて、飲んで、食べて、食べて、飲んだ。

 イナが異常を目の当たりにしたのは、追加のスイーツを自販機から調達しようと席を立ったときのこと。

「え……」

 車両最後部、なぜかそこだけ普通のバスの座席のままになっている一席に、真っ白な和服を着た少女が座っているのだ。
 古風なおかっぱ頭、感情のない顔、青白い肌。久しぶりにお目にかかったので、照合完了までに数秒を要したが、間違いない。リーフと出会う前日、自主的に消えたきりイナの目の前に現れることがなかった、あの少女だ。

 端然と座した少女は、感情の読みとれない顔でイナを凝然と見つめる。なにかを要求するのでも、訴えるのでもない無表情で。

「リーフ、あれ見て」

 肩を叩いて注目を引き寄せ、問題の少女を指差す。和装の少女を視界の中央に映しても、リーフの表情はいっさい変化しない。食べていた宇治金時の器とスプーンをテーブルに置く動作などは、落ち着きすぎているくらいだ。

「あれがずっと前に言った謎の少女。リーフはどう思う?」
「……そうですね」

 立ち上がり、右手を顎に添え、首を軽く突き出すというポーズでまじまじと見つめる。イナは少女ではなく、リーフの顔に焦点を定めて返答を待った。
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