すばらしい新世界

阿波野治

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天からの声

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 弱気に駆られたのを見計らったように、人を見下したようなリーフの顔が頭を過ぎった。たちまち腹の底からむかむかしてきて、見返してやりたい、という気持ちがむらむらと湧いてきた。

 たとえ証人が不在でも、一人でやっていけることを示したい。そのために、襖を開けるのは、「おばあちゃんの死にまつわる、直視しがたい真実」と向き合うのは、絶好の試験だ。リーフの発言によると、直視することでイナは真の意味で幸福になれるそうだから、一石二鳥でもある。

 とはいえ、怖いものは怖い。

 突っ立ったまま、シミュレーションを実施してみる。

 はっきりとした形を持つ敵ならば、台所から包丁を持ち出して、襖を最小限開けて、飛び出してきたところを急所に刃を突き刺す――といったふうに計画を立てられる。実現可能かは別として、対策は打ち出せる。
 しかしイナの予想では、秘められた「直視しがたい真実」とは、静的で精神的なものだ。予想が正しいのだとすれば、取りつく島がない。とてもではないがイナの力では対処できない。

 困難に直面したときの常として、イナは問題と向き合うことをあっさりと放擲する。そして、困難から逃げた事実を隠蔽し、いらだちを解消する一石二鳥の策として、暴力の行使を真剣に検討する。
 視界の端には、凍てつき、身じろぎ一つしないリーフが映っている。

 壊そう、と思った。
 殴打し、切り刻み、踏みつぶし、粉々にしてしまおう。そうしたうえで、消す。すっかり小さくなったパーツの一つ一つに向かって、ありったけの憤怒と憎悪を込めて、「永遠に消えろ」と念じよう。そうすればきっと、いや絶対に、願いは成就するはずだ。
 消すのが難しい? そんなのは嘘だ。リーフは消えたくなかったら、姑息な嘘をついたのだ。
 ぼくは神だ。できないことなどなにもない。

 勇ましい意気込みとはうらはらに、体は現在地から動かない。進む方向にも、退く方向にも。
 自分の体と心なのに、自分の思い通りにならない。人間なら誰にでもできることなのに……。ましてや、ぼくは神なのに……。

 イナはどうにかなってしまいそうだった。発狂する寸前の人間のように、頭髪をめちゃくちゃにかきむしる自分の姿が脳裏を過ぎった。そのイメージに、無意識に忠実に振る舞いそうな予感を覚えた。
 そのとき、天から声が降ってきた。男性的な上から目線の命令ではなく、中性的で柔らかな声が。

『神だとしても、誰かに頼っても別によくない? 今までリーフに頼りきりだったくせに、今さら一人でやることに固執する必要あるの? 真の意味で幸福になることとちっぽけなプライドだったら、明らかに前者のほうが大事でしょ?』
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