すばらしい新世界

阿波野治

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おばあちゃんの話④

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 ただ、所詮は東北という、なじみのない、地理的にも遠い場所で起きた災害であり事故だ。そしてなにより、希和子の突然の死が、ニュースを初めて知った瞬間の衝撃を相対的に低下させていた。
 イナの中では、大地震よりも希和子の死のほうが圧倒的に重大だという認識だった。それに反して、希和子のことなどほったらかしにして、放射能がどうの、津波がこうのと語る大人たちが、イナには地球ではない惑星で生まれ育った人間のように感じられた。己と繋がりがある死者は悼むものという観念が根幹から揺らぎ、混乱と困惑に拍車がかかった。

 智夫の葬儀に参列したことで、人々はたとえ身近な人間の死だとしても、どっぷりと沈むようには悲しまないと学習済みだ。しかし、それにしても、希和子の葬儀に集った人々の、希和子に対する無関心は異常だと感じた。己に直接の影響をもたらした大事件・大事故・大災害ならまだしも、地震が、津波が、原発事故が起きたのは、遠く離れた東北の地ではないか。日本史に残るような大事件であり大災害なのは分かるが、希和子の死だって、希和子と親しい人間からすれば、自分史に太字で明記される規模の大事件のはずなのに。

 悶々とするイナの心の中で、不意に、暗鬱に俯く希和子の姿が明滅し始めた。それが引き金となり、唐突に胸に浮かんだ考えに、彼女は危うく叫び声を上げるところだった。
 希和子おばあちゃんはずっと孤独だ。智夫おじいちゃんが死んでから、今に至るまでずっと。本来はみなに見送られて旅立つべき、葬儀の場においてさえも。

 イナは幼いころから、物事を冷ややかに捉える傾向がある。
 死者の目に死者自身の葬儀がどう映ったのかに思いを巡らせるなど、ナンセンスの極みだ。
 本来ならばそう考えるのだが、そのときのイナは違った。孤独に陥り、孤独が原因となって死に、孤独に見送られる希和子を、心から不憫だと思った。

 今は亡き祖母に心底同情した。そして、そのような立場に祖母を追いやった参列者たちを憎悪した。

 これが世の中というものなのだ。世間というものなのだ。他人というものなのだ。気持ち悪いし、笑えないし、救いようがない。
 あいつらの輪に加わるのは、やめよう。なるべく距離を置こう。あいつらと交わったら、いや近くにいるだけでも、ぼくがぼくではなくなってしまいそうだ。あいつらに気を許してはならない。
 ぼくは、ぼくの好きなように生きよう。誰になにを言われようと、自分が信じる道を突き進もう。
 積極的に喧嘩をふっかけても、時間を無駄づかいするだけだから、普段はあいつらには構わないでおく。だけど、いざ対立したら、徹底的に戦おう。徹底的に戦うべきだ。そのスタンスで、これからの長い人生を歩んでいこう。
 孤独だとしても構うものか。絶対に、絶対に、自分の好きなように生きるんだ。
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