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決意
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本当は孤独が怖かった。
孤独に生き、孤独に死ぬ人間は、寂しくて、哀れだ。二の舞を演じたくない。
心の最も深い場所ではそう思っていたからこそ、イナは希和子の死を抑圧し、忘却した。
周りから孤立してでも我が道を往こうと決めたきっかけは、他ならぬ希和子の死だというのに。
* * *
気がつくと、イナは泣いていた。声を上げない、洟をすすらない、表情を狂おしげに歪めて音もなく涙を流すだけの、この世界で実行可能な中で最も静かな泣きかたで。
泣いていると自覚した直後、流れる涙を断続的に拭う指の存在に気がつく。頬を撫でる感触はくすぐったいくらいに穏やかで、視界にちらつく指は白く繊細だ。双眸が捉えたその正体は、
「あ……」
和服姿の少女だった。畳に膝をつき、イナのほうに少し上体を傾けるという姿勢。顔に浮かんでいるのは、永遠に崩れることがなさそうな青白い無表情。
「……希和子おばあちゃん」
イナは祖母に向かってゆっくりと手を伸ばす。顔を、厳密には右頬を目標到達地点に定めたのは、自分の指先には神の力が宿っていて、触れることで少女を笑顔にさせられるかもしれない、と考えたから。
しかし、指頭が体表に接する寸前、少女の体は急速に薄れていき、あっという間に無に同化してしまった。
しばらくの間、虚空に停止させた右手を、イナは自らの涙を拭うために用いた。控えめながらも洟をすする音を交えた泣きかたで、説明のできない悲しみに身を委ねた。
* * *
おぞましく憎らしい「世間」とどう折り合いをつけるべきなのか?
現時点では答えは出ていない。たった十二年しか生きていないイナが、おいそれと導き出せるはずもない。
ただ、二年前に抱いた「対立したときは断固として戦うべきだが、積極的に喧嘩を売る必要はない」という考えが遠回しに示すように、イナは「世間」が手強い難敵だと認識している。
だからこそ、なにもかも自分の思い通りになる世界へと逃避した。
完璧に屈服させるのは、もしかすると永遠に不可能なのかもしれない。
だからといって、諦めるのは情けない。屈するなんて、とんでもない。なによりも、やられっぱなしは癪だ。プライドが許さないし、気が収まらない。
一矢を報いるためにも、広大な砂漠に落ちた一粒の宝石よりも小さな勝利を掴みとるためにも、この世界に留まり続けてはいけない。
新世界に別れを告げよう。
元の世界に帰ろう。
屈辱的な目に遭い続けたとしても、負け続けたとしても、いつの日か輝かしい勝利を手にするために。
そのためには、やはり、リーフには永遠に消えてもらわなければならない。
この世界で一人で生きていくために、ではなく、元の世界で逃げずに戦い続けるために。
孤独に生き、孤独に死ぬ人間は、寂しくて、哀れだ。二の舞を演じたくない。
心の最も深い場所ではそう思っていたからこそ、イナは希和子の死を抑圧し、忘却した。
周りから孤立してでも我が道を往こうと決めたきっかけは、他ならぬ希和子の死だというのに。
* * *
気がつくと、イナは泣いていた。声を上げない、洟をすすらない、表情を狂おしげに歪めて音もなく涙を流すだけの、この世界で実行可能な中で最も静かな泣きかたで。
泣いていると自覚した直後、流れる涙を断続的に拭う指の存在に気がつく。頬を撫でる感触はくすぐったいくらいに穏やかで、視界にちらつく指は白く繊細だ。双眸が捉えたその正体は、
「あ……」
和服姿の少女だった。畳に膝をつき、イナのほうに少し上体を傾けるという姿勢。顔に浮かんでいるのは、永遠に崩れることがなさそうな青白い無表情。
「……希和子おばあちゃん」
イナは祖母に向かってゆっくりと手を伸ばす。顔を、厳密には右頬を目標到達地点に定めたのは、自分の指先には神の力が宿っていて、触れることで少女を笑顔にさせられるかもしれない、と考えたから。
しかし、指頭が体表に接する寸前、少女の体は急速に薄れていき、あっという間に無に同化してしまった。
しばらくの間、虚空に停止させた右手を、イナは自らの涙を拭うために用いた。控えめながらも洟をすする音を交えた泣きかたで、説明のできない悲しみに身を委ねた。
* * *
おぞましく憎らしい「世間」とどう折り合いをつけるべきなのか?
現時点では答えは出ていない。たった十二年しか生きていないイナが、おいそれと導き出せるはずもない。
ただ、二年前に抱いた「対立したときは断固として戦うべきだが、積極的に喧嘩を売る必要はない」という考えが遠回しに示すように、イナは「世間」が手強い難敵だと認識している。
だからこそ、なにもかも自分の思い通りになる世界へと逃避した。
完璧に屈服させるのは、もしかすると永遠に不可能なのかもしれない。
だからといって、諦めるのは情けない。屈するなんて、とんでもない。なによりも、やられっぱなしは癪だ。プライドが許さないし、気が収まらない。
一矢を報いるためにも、広大な砂漠に落ちた一粒の宝石よりも小さな勝利を掴みとるためにも、この世界に留まり続けてはいけない。
新世界に別れを告げよう。
元の世界に帰ろう。
屈辱的な目に遭い続けたとしても、負け続けたとしても、いつの日か輝かしい勝利を手にするために。
そのためには、やはり、リーフには永遠に消えてもらわなければならない。
この世界で一人で生きていくために、ではなく、元の世界で逃げずに戦い続けるために。
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