29 / 46
AV
しおりを挟む
来客用のグラスはないが、スペアがあるのでそれに茶をつぐ。
ケンの場合は、わたしのプライベート空間への侵入が極めて強引、まさに闖入といった感じだった。ただ、利害関係が一致したため、現在は安定的な関係を保っている。
一方のフレデリカさんの場合は、正規の来客として受け入れたにもかかわらず、なにを企んでいるかが分からない。わたしは今、違和感と不快感の中間のような感覚を覚えている。策略にまんまとはまって、意に反して招き入れてしまったかのような。
「あ、どうもー」
フレデリカさんは融けていない微笑みで感謝の意を示した。わたしの手からグラスを受け取り、さっそく唇をつける。透明な器を持っている方ではない手、その中で三番目に長い指を使ってノートパソコンを起動させる。わたしは対面の椅子に座り、飲みたくもない茶を一口。
「あたしね、実は、AV女優なの」
ノートパソコンの向こう側からフレデリカさんが述べる。わたしが驚きの感情を正常に覚える正常な人間であれば、口に含んでいた液体を噴き出したのちにむせるという、古典的なリアクションを示していたかもしれない。
ノートパソコンが障壁となり、表情は窺えない。窺おうとは思わない。ただ、窺ってほしそうな気配、雰囲気、空気感、といったものは漠然と伝わってくる。フレデリカさんは、自らの世界にわたしを巻き込もうとしている。
そのような目的を持っている場合、常人であれば、自らの巣に獲物を引っ張り込もうとする。しかしフレデリカさんは、わたしの巣に乗り込んできた。誰だって、自らの巣が最上の安息の場所だ。どこへ逃げても、現在地以上に心身が安らげる場所は存在しないから、敵が侵入したとしても容易には巣を放棄しようとはしない。そう考えると、敵地に乗り込むという、一見捨て鉢で非合理的にも思えるフレデリカさんの行動は、実に理に適っている。計算なのか、動物的な本能に基づくものなのかは定かではないが、効果的な一手なのは間違いない。
「自分で言うのもなんだけど、結構な売れっ子なんだ。なんで売れっ子かというと、第一に、数をこなすから。第二に、ライバルが嫌がる仕事も引き受けるから。どんな仕事かっていうと――ほら」
ノートパソコンが回転し、ディスプレイがこちらを向いた。ウィンドウが最大化されていて、すでに動画が再生されている。
真っ白で殺風景な空間。その中央に、豆粒ほどの大きさのなんらかの物体が存在している。遅々とした速度で物体がズームされ、ほどなく正体が明らかになった。
フレデリカさんだ。五ミリずれれば陰毛と乳輪が露出しそうな面積の、悪趣味なまでに派手な花柄の水着を着用し、正座を崩したような座り方をしている。セミロングヘアは、わたしが知るフレデリカさんの髪色のようなピンクではなく、チョコレート色に染まっている。メイクが濃い。どこか眠たそうで、それでいて、なにかを欲する貪欲さを内に宿している、とでも形容するべき表情。視線はカメラの方向だ。
突然、画面の右端から全裸の男性が現れ、フレデリカさんの肩を蹴った。剥き出しのペニスが揺れ、水着に包まれたおっぱいが揺れ、フレデリカさんは床に両手をつく。振り向いた彼女の顔に向かって、男性は放尿する。尿は放物線を描いて顔面に直撃する。フレデリカさんは双眸と口を固く閉じ、粛々と放水を受け止める。表情だけを見ると嫌悪感を覚えているようだが、避けようとする素振りは見られない。
やがて放水が打ち止めになる。私は所詮放尿するだけの機械、それ以上でもそれ以下でもないと言わんばかりに、男性は速やかに画面の外に退いた。
入れ替わりに、フレデリカさんの顔が大写しになる。一言で表すならば、恍惚とした表情。メイクと共に顔のパーツも融け、垂れ落ちているような。
ケンの場合は、わたしのプライベート空間への侵入が極めて強引、まさに闖入といった感じだった。ただ、利害関係が一致したため、現在は安定的な関係を保っている。
一方のフレデリカさんの場合は、正規の来客として受け入れたにもかかわらず、なにを企んでいるかが分からない。わたしは今、違和感と不快感の中間のような感覚を覚えている。策略にまんまとはまって、意に反して招き入れてしまったかのような。
「あ、どうもー」
フレデリカさんは融けていない微笑みで感謝の意を示した。わたしの手からグラスを受け取り、さっそく唇をつける。透明な器を持っている方ではない手、その中で三番目に長い指を使ってノートパソコンを起動させる。わたしは対面の椅子に座り、飲みたくもない茶を一口。
「あたしね、実は、AV女優なの」
ノートパソコンの向こう側からフレデリカさんが述べる。わたしが驚きの感情を正常に覚える正常な人間であれば、口に含んでいた液体を噴き出したのちにむせるという、古典的なリアクションを示していたかもしれない。
ノートパソコンが障壁となり、表情は窺えない。窺おうとは思わない。ただ、窺ってほしそうな気配、雰囲気、空気感、といったものは漠然と伝わってくる。フレデリカさんは、自らの世界にわたしを巻き込もうとしている。
そのような目的を持っている場合、常人であれば、自らの巣に獲物を引っ張り込もうとする。しかしフレデリカさんは、わたしの巣に乗り込んできた。誰だって、自らの巣が最上の安息の場所だ。どこへ逃げても、現在地以上に心身が安らげる場所は存在しないから、敵が侵入したとしても容易には巣を放棄しようとはしない。そう考えると、敵地に乗り込むという、一見捨て鉢で非合理的にも思えるフレデリカさんの行動は、実に理に適っている。計算なのか、動物的な本能に基づくものなのかは定かではないが、効果的な一手なのは間違いない。
「自分で言うのもなんだけど、結構な売れっ子なんだ。なんで売れっ子かというと、第一に、数をこなすから。第二に、ライバルが嫌がる仕事も引き受けるから。どんな仕事かっていうと――ほら」
ノートパソコンが回転し、ディスプレイがこちらを向いた。ウィンドウが最大化されていて、すでに動画が再生されている。
真っ白で殺風景な空間。その中央に、豆粒ほどの大きさのなんらかの物体が存在している。遅々とした速度で物体がズームされ、ほどなく正体が明らかになった。
フレデリカさんだ。五ミリずれれば陰毛と乳輪が露出しそうな面積の、悪趣味なまでに派手な花柄の水着を着用し、正座を崩したような座り方をしている。セミロングヘアは、わたしが知るフレデリカさんの髪色のようなピンクではなく、チョコレート色に染まっている。メイクが濃い。どこか眠たそうで、それでいて、なにかを欲する貪欲さを内に宿している、とでも形容するべき表情。視線はカメラの方向だ。
突然、画面の右端から全裸の男性が現れ、フレデリカさんの肩を蹴った。剥き出しのペニスが揺れ、水着に包まれたおっぱいが揺れ、フレデリカさんは床に両手をつく。振り向いた彼女の顔に向かって、男性は放尿する。尿は放物線を描いて顔面に直撃する。フレデリカさんは双眸と口を固く閉じ、粛々と放水を受け止める。表情だけを見ると嫌悪感を覚えているようだが、避けようとする素振りは見られない。
やがて放水が打ち止めになる。私は所詮放尿するだけの機械、それ以上でもそれ以下でもないと言わんばかりに、男性は速やかに画面の外に退いた。
入れ替わりに、フレデリカさんの顔が大写しになる。一言で表すならば、恍惚とした表情。メイクと共に顔のパーツも融け、垂れ落ちているような。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる