いかされ

阿波野治

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虐殺のあと

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 早めの昼食かと疑うくらい大量に、「決戦前の腹ごしらえ」と称して大量の食事を胃の腑に詰め込み、ケンは出立した。
 終わったら公衆電話で報告する、との弁だった。携帯電話ならばフレデリカさんのものがあったが、位置情報を特定されるのが嫌で、「秘密基地」に拉致する前に破棄したらしい。公衆電話がこの街のどこにあるかの地図は、完璧に把握しているという。

 彼は四人の殺害を確実に成功させるだろう。
 わたしは、どうすればいいのだろう。


* * *


 正午前にケンから電話がかかってきた。

「終わったよー」

 軽やかな声を聞いた瞬間、結果がどう転んだのかが呑み込めた。ケンは、分かりやすい。

「四人は全員殺したよ。無事に殺した。他にも巻き添えっていうか、ついでに殺して、全員で十五人くらいかな? んー、もっといったかも。成果のほどはあとでニュースで見てって感じなんだけど、もうね、疲れたね。うん、疲れた。だってほら、ぼくってマスマーダーじゃなくてシリアルキラーだから、一回の犯行であんまり人数をこなさないでしょ? 高井のときは一家三人皆殺しにしたけど、あれが一日の最高記録。それが、今日いきなり十五人とか二十人とかを一気に殺ったわけだから、疲れて当然だよね。死ななかったやつもいるだろうから、刺した数だけならその二倍近くかな。ナイフの刃が根本からぽっきり折れるとか、ぶっつけ本番にありがちなアクシデントもあったけど、予備のナイフを持っていたから助かったよ。秘密基地に武器を蓄えているんだけど、その中から予備として二本、懐に忍ばせておいたおかげでね。いきなり四人から殺しちゃうと、『あっ、あなたは四人になんらかの恨みを持っているからこそ、凶行に及んだのですね。そのあとで他の人間を殺したのは、カモフラージュのためなのですね』だなんて疑われかねないから、まずはたまたまベビーカーを押しながら近くを歩いていた若い女を――」

「詳細な報告はあとにして。そんなことよりケン、今どこにいるの?」
「あっ、ごめん。今ね、無人駅の公衆電話。合流する前に確認だけど、飯はどうする? ぼちぼち昼飯の時間だよね。運動したあとだからむちゃくちゃ腹減ってんだよ」
「適当なものを買っていく。で、秘密基地の場所だけど」
「秘密基地だけあってちょっと分かりにくいところにあるから、近くにある公園の場所を教えるね。そこで合流して、飯を食ってから秘密基地へ行こう。で、公園の場所だけど――」

 滑らかな説明とは言い難かったが、とにもかくにも場所は把握できた。すぐに行く、と告げて通話を切る。

「さて」

 公園で合流する。昼食をとる。秘密基地まで移動し、フレデリカさんの現状を見学する。ケンのお楽しみタイム。フレデリカさんを殺す。
 さらに先の未来について考えようとしたが、上手くまとまらない。

 携帯電話でニュースを確認すると、わたしが住む街のショッピングセンターで無差別殺傷事件が発生した、という速報が入っていた。死傷者の正確な数は現時点では不明らしいが、少なくとも十名以上だという。
 ケンが殺したと明言したのだから、その中には四人も含まれているのだろう。


* * *


「ユエ!」

 土地が中途半端に余ったから造ってみた、といった風情の狭隘な公園に辿り着くと、ベンチでケンが胡坐をかいていた。服が血まみれだ。右手に提げたレジ袋を揺らしながら駆け寄る。

「そんなにぼくが心配だったの? 大丈夫、大丈夫! 誰からも追われていないし、反撃を受けて傷を負うなんてことも――」
「違う。服」

「へっ?」というように口を半分開け、己の体を見下ろす。衣服を盛大に穢す赤を目の当たりにした瞬間、おおおおう、という声が唇から漏れた。

「やっべ、全然気づかなかった! うっわー、アホだな、ぼく」
「誰にも見られなかったよね」
「うん、それは大丈夫。人通りのない場所を通ったから、そもそも人に遭遇していないしねー。でも、ユエが速やかにここまで来てくれていなかったら、もしかすると面倒くさい事態になっていたかもしれない。ユエのおかげで助かったよ。ありがとう!」

 子供らしさが強く感じられる満面の笑み。大仕事を終えたあとだから、心が高ぶっているに違いないと思い込んでいたが、存外落ち着いている。何十人も刺した直後であることを考えれば、強い疲労感に中和されている、と解釈するのが妥当だろう。

「じゃあ、腹減ったから飯にしよう、昼飯に。なにを買ってきたの?」
「焼肉弁当と、鮭おにぎりと、クリームパン」
「うん、ぼくの好物ばかりだ。じゃあ、念には念を入れて、トイレの中でランチってことで」

 シャツを素早く脱ぎ、雨に濡れた犬のように頭を左右に振る。再びわたしに笑いかける。レジ袋を一つ、わたしの手から奪い取る。公園の片隅にあるトイレへ大股で向かう。
 脱ぎ捨てられた血塗れのシャツを拾い上げ、ケンに続く。ケンは袋の中身を漁っている。わたしの方には見向きもしない。

 このあとどうすればいいのかを、わたしは考えている。
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