殺人中華ピザ男と地下水路コーラ

阿波野治

文字の大きさ
2 / 9

大学を辞めた日

しおりを挟む
 大学に退学届を提出した日の話をしよう。学年主任的な立場の人間からありがたいお言葉を賜った記憶もあるが、今となっては曖昧なので、大学を出て、駅に到着したところから話を始めたいと思う。
 実家へは高速バスを利用して帰ることになっていたが、出発まではまだ時間がある。午前十一時を回ったばかりではあったが、待っている間にすることもないので、昼食を済ませておくことにした。
 駅ビルにはラーメン店ばかりが入ったフロアがあった。大学を辞めたばかり、これからの人生について取り留めもなく考えている最中のことだ。テンションは上がらず、食欲もあまりなかったので、手早く食べられるラーメンならばちょうどいい。エレベーターでそのフロアへ向かった。
 一通り見て回ったが、テンションの低さと食欲のなさに邪魔されて、「ここで食べたい」と思う店に巡り会えない。そうは言っても、バスに長時間乗っていなければならないことを考えれば、何でもいいから取り敢えず腹に入れておきたい。何でもいいのだから安く済ませようということで、フロアの中で一番安い値段でラーメンを提供していた店へと引き返し、店頭の自販機で食券を購入して入店した。
 店内には客がいなかった。カウンターの傍らで二人の店員が立ち話をしていて、いかにも暇そうだ。この時点で嫌な予感はしていたのだが、今の時間帯は飲食店はどこも客が少ないのだと自らに言い聞かせ、注文の品を待った。
 やがてラーメンが運ばれてきた。麺をすすってみると、あまり美味しくない。同時に違和感も覚えた。レンゲでスープをすくって口に運んでみて、謎が解けた。
 ぬるいのだ。原因は定かではないが、そのラーメンのスープは明らかにぬるかった。不味いラーメンならば今までに何度も食べたことがあるが、スープがぬるいラーメンを食べたのはその時が初めてだった。
 ぬるいし不味かったが、食べられないレベルではない。退学届を提出した直後のテンションだから、店の人間に文句言う気力は湧かないし、文句を言っても温かくて美味いラーメンにありつける保証はない。麺だけを無理矢理胃の腑に詰めて店を出た。
 帰りのバスの中で、私は酷く惨めな気分だった。大学を辞めたのだから惨めな気分になるのは当たり前だが、せめて昼食に美味いものを食べていれば、あそこまで心が沈むことはなかったのではないかと思う。
 その店が今も存続しているのかどうかは分からないし、調べてみる気にもなれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Webコンテンツ大賞の戦い方【模索してみよう!】

橘花やよい
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスのWebコンテンツ大賞。 読者投票もあるし、うまく戦いたいですよね。 ●応募作、いつから投稿をはじめましょう? ●そもそもどうやったら、読んでもらえるかな? ●参加時の心得は? といったことを、ゆるふわっと書きます。皆さまも、ゆるふわっと読んでくださいませ。 30日と31日にかけて公開します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...