切言屋

阿波野治

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遼の依頼⑤

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 草太朗とのどかの手により、ソファとテーブルの周りから生活臭漂う物品は速やかに一掃され、即席の応接スペースが完成した。

「待たせてごめんね。お客さんがめったに来ないから、準備が整っていなくて。えっと、君の名前は――」
「結城です。結城遼」

 つい五分前までのどかが座っていた場所に座った少年が言う。硬さが感じられる声と、真っ直ぐに伸びた背筋が、彼が緊張状態にあることを示している。そのせいで、隣に置いたスクールバッグが座面からずり落ちそうになっていることに気づいていない。
 草太朗はバッグをきちんと置き直してから、「どうぞ」と言って麦茶のグラスをテーブルに置いた。
 向かいに腰を下ろしたところで、のどかが自室のドアの隙間からリビングをうかがっていることに気がつく。

 草太朗が小さく手招きすると、頭を振った。しかし、部屋に引っ込もうとはしない。
 今度は両手を使って大きく手招きをする。観念したらしく、もったいぶったような歩きかたで歩み寄ってきた。唇を少し尖らせている。
 娘がこんな表情をしているのを見たとき、草太朗はついからかいたくなるのだが、今は依頼人の少年――遼が目の前にいる。
 草太朗が左にずれ、のどかは生じた一人分のスペースにしとやかに腰を下ろした。

「お待たせしました」
 草太朗は尻を置く位置を座面の少し手前へとずらす。上体を少し倒して顔を低くし、上目遣いに遼の目を見ながらほほ笑む。営業スマイル。ポジティブでのんびりした性格の草太朗は、普段から緊張感に欠ける表情を浮かべている時間は長いが、それを適度に引きしめることを心がけての微笑。

「改めて自己紹介をさせてもらうね。僕は切言屋をやっている武元草太朗といいます。依頼に関する相談に来てくれたということで、よろしくお願いします」
 両膝を掴んで深々と頭を下げる。
 釣り込まれたように頭を下げた遼の顔は、依然として緊張気味だ。
 草太朗は娘の肩にそっと手をのせ、

「この子は僕の娘ののどか。まあ、助手のようなものかな。歴としたうちの従業員なので、気にせずに僕に相談してくれればって思います。
 さっそくですが、どのようなご相談ですか?」
「はい、あの……。本人に相談するとは言ってないし、その子の家族にも許可をとっていないんですけど、話しても大丈夫でしょうか」
「構いませんよ。ぜひお願いします」

 それはちょっとまずいな、と思ったが、顔には出さずにそう返す。今、草太朗が優先させるべきは仕事の確保。マナーや道徳は二の次だ。

「分かりました。上手く説明できるか分からないですけど――」
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