切言屋

阿波野治

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二度目の説得②

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 そこまで考えたところで、昨日、のどかの帰宅後に体験したのと同じ引っかかりが美咲を足止めした。
 不登校・ひきこもり・人としゃべらない。
 以上の症状に悩まされるようになった原因について、少なくとも現時点では、自分の言葉で他人に説明する準備ができていない。

 文章が整わないのではなく、原因が自分でも心当たりがないのだから、お話にならない。
 この段階に留まっているようでは、のどかは美咲を助けてあげたくても助けてあげられない。

 のどかにすがりつきたい気持ちは大幅に萎えた。

 助けてほしい。その気持ちはたしかにある。でも、無理だ。責任はわたしにあるから、こう言ってしまうのは心苦しいけど――わたしの役に立ってくれないなら、いっそのこと帰ってほしい。
 いや、帰ってほしくない。助けてほしいのだから。見捨てられたくない。というよりも、逃したくない。せっかく、ただわたしを助けたいと願うだけではなくて、実際に助けてくれそうな人に出会えたのに。
 でも、やっぱり、現状では置物も同然なのだから、居座られても迷惑なだけだ。中途半端に期待させるくらいなら、消えてほしい。静かに読書していたとしても、百点満点じゃない。ページをめくる音。生きている人間が間近に存在する気配。それらすべての音声がわたしには耐えがたい。

 わたしがのどかちゃんに望むことはただ一つ。
 帰ってほしい。わたしの前から今すぐにいなくなってほしい。

 ……でも。
 でも、そうしたら、わたしが救われる可能性も消滅してしまう……。

 一週間を越えるひきこもり生活を送り、心身ともに弱っている美咲に、葛藤という作業はあまりにも負担が大きすぎた。どちらを選んでも百パーセント納得できないと、結論を下す前から見え透いている。だからこそ重いし、苦しい。

 後悔を避けられないのだとしても、一つを選ぶことで、今よりも少しは楽になれるかもしれない。
 そう開き直った。完全にではないにせよ重苦しさから逃れる方法は、それしか思い浮かばないから、開き直りたくなくても開き直らざるを得なかった。

 ベッドの縁に腰かけた美咲は、すぐ脇の学習机へと手を伸ばし、ペン立てからボールペンを抜く。
 のどかは物音を聞きとっただろうか? わたしがなにをしたから発生した音だと想像したのだろう?
 頬が熱くなったが、振り切って突き進む。

 用紙は昨日の倍以上の面積になったにもかかわらず、つづられた文字数は十分の一以下だから、余白はあり余っている。しかしあえて、美咲は小さな文字で返信をしたためた。
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