切言屋

阿波野治

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突然の報せ④

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 再びかかってきたのは、通話が切れて十分弱が経ったときのこと。
 少し時間がかかりすぎているような気もして、草太朗は胸騒ぎがしたが、聞こえてきた声は思いのほか冷静だった。

「『傷は大丈夫』という書き出しの返信を書いた紙が出ていました。手を切ってしまって血が出たけど、今は完全に止まっていると」

 美咲が嘘をついた可能性もある。ただ、最近はもっぱら必要最低限の要望のみを紙につづっていた美咲が、わざわざ原因と現状を文字で伝えたのは、「ほんとうのことを言うから、しつこく構わないで」というメッセージを伝えたかったからだと解釈できる。母親の報告の声から感じられる落ち着きは、娘の無事を察したからこそ、だろう。
 美咲の命に別状はない。そう断定してもよさそうだ。

 ただ、美咲が「手を切った」という表現を使っているのが気がかりだ。
 ……まさか、自らの手で自らの手首を?

「もう一つだけお願いしたいことがあります。美咲ちゃんの血がついた紙を撮影して、僕のスマホまで送ってもらえますか?」

 二つ返事で了承され、すぐに画像が送られてきた。
 赤。その視覚的なインパクトに軽く怯んだが、瞬時に気持ちを立て直して画像を凝視する。
 大きさの目安として十円硬貨がいっしょに映っていたが、血の総面積はそれよりも少し狭いくらいで、形は輪郭をかすかに波打たせた楕円形。
 草太朗はメモ用紙が一面真っ赤に染まっている画像を想定していたので、拍子抜けがした。

 カッター程度の刃物でも、切るという目的意識をもって手首を切れば、出血量はこんなものでは済まない。紙などで誤って指を切って出血し、止血しようと紙を押し当てたらそのような形に血がついた、そんな様子に見える。
 ただ、結果や原因がどうであれ、自分の体から流れ出た血を他者に見せる行為には、なんらかの意味があると考えるべきだろう。
 たしかなのは、その意味が掴み切れていない以上、美咲の母親に考えを伝えるのは避けたほうがいい、ということだ。彼女は今回の一件で、ただでさえ動揺しているのだから。

「命に別状はないようなので、安心しました。今回の件を踏まえて、説得の方針が変更になるかもしれません。その場合も早いうちに連絡させてもらうので、よろしくお願いします」
「こちらこそ。……あの、武元さん」

 通話を切ろうとすると、心細そうな声に呼び止められた。

「美咲は、大丈夫なんでしょうか。また自傷するようなことが――いえ、自分で切ったとは限らないんですけど、もしまた今回みたいなことが起きたらと思うと……」
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