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突然の報せ⑤
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「大丈夫ですよ、お母さん。血がついたメモに関しては分からないことも多いですけど、報告を聞いた限り美咲ちゃんの精神状態は安定しているようですし、行為がくり返される可能性はほぼないと思います」
「……そうでしょうか」
「安心していいと思いますよ。怖いのは、周りの人間が心配すぎて、せっかく安定していた美咲ちゃんの精神状態が乱れること。そんなことにならないためにも、お母さんはいつもどおりに美咲ちゃんと接してあげてください。傷のことも、お母さんのほうからはあまり触れないほうがいいかもしれませんね。『絆創膏がほしいなら言ってよ』くらいのことは伝えてもいいでしょうが、そのさいもしつこくなりすぎないように気をつけてください。そうすれば、今後今回のような問題が起きることもないと思いますよ」
具体的な対策を教授したのが安心に繋がったらしく、美咲の母親は「分かりました。ありがとうございます」と言って通話を切った。
* * *
美咲の母親からの連絡を待っていた十数分前を再現したような、ソファにふんぞり返って腕組みをする姿勢で、草太朗は思案に沈む。
可能なら、血のメモを見せた意味について、まずはじっくり考察したかった。しかし集中力を保てず、意識の焦点がなかなか一点に定まらない。思考の対象が次から次へと移り変わり、忙しないことこの上ない。
非効率的なことをしているな、僕も。
苦笑を禁じ得なかったが、是正はしない。寄り道を重ねながらも、考えは徐々に前に進んでいるからだ。
長い時間を経て、これに関しては間違いない、というものを草太朗は見つけ出した。さっそく電話をかけた。
「遼くん、突然ごめんね。今話をしても大丈夫かな」
遼は声に緊張をにじませながら「大丈夫です」と答えた。草太朗は相手に顔が見えていないのを承知で眉をひそめる演技をしながら、
「さっき美咲ちゃんのお母さんから連絡があって、遼くんはまだ知らないと思うから伝えるね。美咲ちゃんが今日、血がついたメモをお母さんに提出した」
「血がついたメモ? どういうことですか」
草太朗は説明する。怪我は酷くないこと。自傷なのか事故なのかは不明なこと。付着していた血の量について。現在精神状態は安定していて悲劇がくり返される心配はしなくてもいいこと。
草太朗以上に衝撃を受けたらしく、遼は絶句している。双眸を見開き、口は半分開き、呆然と部屋の壁紙を見つめている姿が目に浮かぶようだ。
「遼くんに頼みたいことがあるんだ。もしかしたら、これが最後の頼みになるかもしれない。絶対に君にしかできないことだから」
ごくり、という喉を鳴らす音が聞こえたあと、「なんでしょう」と遼は言った。
伝える言葉自体は短く済んだ。
「分かりました」と、遼の返事も簡潔だった。
「……そうでしょうか」
「安心していいと思いますよ。怖いのは、周りの人間が心配すぎて、せっかく安定していた美咲ちゃんの精神状態が乱れること。そんなことにならないためにも、お母さんはいつもどおりに美咲ちゃんと接してあげてください。傷のことも、お母さんのほうからはあまり触れないほうがいいかもしれませんね。『絆創膏がほしいなら言ってよ』くらいのことは伝えてもいいでしょうが、そのさいもしつこくなりすぎないように気をつけてください。そうすれば、今後今回のような問題が起きることもないと思いますよ」
具体的な対策を教授したのが安心に繋がったらしく、美咲の母親は「分かりました。ありがとうございます」と言って通話を切った。
* * *
美咲の母親からの連絡を待っていた十数分前を再現したような、ソファにふんぞり返って腕組みをする姿勢で、草太朗は思案に沈む。
可能なら、血のメモを見せた意味について、まずはじっくり考察したかった。しかし集中力を保てず、意識の焦点がなかなか一点に定まらない。思考の対象が次から次へと移り変わり、忙しないことこの上ない。
非効率的なことをしているな、僕も。
苦笑を禁じ得なかったが、是正はしない。寄り道を重ねながらも、考えは徐々に前に進んでいるからだ。
長い時間を経て、これに関しては間違いない、というものを草太朗は見つけ出した。さっそく電話をかけた。
「遼くん、突然ごめんね。今話をしても大丈夫かな」
遼は声に緊張をにじませながら「大丈夫です」と答えた。草太朗は相手に顔が見えていないのを承知で眉をひそめる演技をしながら、
「さっき美咲ちゃんのお母さんから連絡があって、遼くんはまだ知らないと思うから伝えるね。美咲ちゃんが今日、血がついたメモをお母さんに提出した」
「血がついたメモ? どういうことですか」
草太朗は説明する。怪我は酷くないこと。自傷なのか事故なのかは不明なこと。付着していた血の量について。現在精神状態は安定していて悲劇がくり返される心配はしなくてもいいこと。
草太朗以上に衝撃を受けたらしく、遼は絶句している。双眸を見開き、口は半分開き、呆然と部屋の壁紙を見つめている姿が目に浮かぶようだ。
「遼くんに頼みたいことがあるんだ。もしかしたら、これが最後の頼みになるかもしれない。絶対に君にしかできないことだから」
ごくり、という喉を鳴らす音が聞こえたあと、「なんでしょう」と遼は言った。
伝える言葉自体は短く済んだ。
「分かりました」と、遼の返事も簡潔だった。
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