切言屋

阿波野治

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朝の連絡②

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「のどかは絶対に認めないだろうけど、のどかは美咲ちゃんのことを大切に思っている。
 報告によると、のどかは『話したいならいつでも自由に話して』と伝えて、自分から特に働きかけは行っていないみたいだね。でも、だからといって、美咲ちゃんに対する愛情がないわけじゃない。むしろ広い意味で愛しているからこそ、信頼しているからこそ、美咲ちゃんに全面的に委ねている。いつかかならず事情を打ち明けてくれるって、心の底では信じている。
 逆に美咲ちゃんも、のどかに対して愛情と信頼を抱いている。のどかと美咲ちゃんは筆談を数回交わしたことがあるだけだけど、母親と最小限の筆談をするだけだった子が、母親以外の人間と文字をやりとりしたこと、それがもう心を許しはじめている証拠だよね。
 美咲ちゃんの中ではたぶん、お母さんや遼くんを凌駕するくらい大切な存在になっているんじゃないかな。そんな馬鹿な、彼らとは交流を重ねてきた歴史が違いすぎるじゃないかって思うかもしれないけど、心を許すか許さないかは、交流の長さじゃなくて濃度で決まるものだからね。
 お母さんでも遼くんでも、ましてや僕でもなくて、のどかが送信したメッセージが一番、美咲ちゃんの心に響くと思う。パパがのどかに任せる理由は以上だよ」

 のどかは黙考している。草太朗は黙って返事を待つ。

「『二日間待っていて』っていうメッセージを送れというのは」

 のどかは自らの意思で父親と視線を重ね、長らく続いていた沈黙を破った。

「美咲が手首を切ったかもしれなくて、精神的に不安定な可能性が高いから、わたしが行かない二日のあいだになにかあったら困るから、それ対策として、ということだよね」
「そうだよ。百パーセント正解。なにか懸念でも?」
「ほんとうに効果があるのか、疑わしいんだけど。それに、たとえば、メッセージ送ったあとで自殺したら、わたしの責任? そんなの、嫌だよ。赤の他人のせいで迷惑をこうむるのは」
「僕はむしろ、メッセージを送るのをためらう理由が分からないな。美咲ちゃんからすれば、声をかけてもらって一番うれしい人間は、絶対にのどかだよ。これはもう間違いない。責任については、もちろん僕がとる。切言屋だし、大人だし、親なんだから当然だね。他になにかある?」

 のどかの唇が一瞬動いたが、それだけだった。
 要求を呑むのをためらうのは、たった一つの自己中心的な理由からだと気がついたのだろう。のどかは我が道を行く少女だが、正当性のある理由が見つからなかった場合、「嫌だから嫌だ」で押し通すのをためらう傾向がある。

「パパから伝えたいことは以上です。からあげサンド、のどかに譲ってあげるから、顔と手を洗ってきて」

 のどかは黙って洗面所へ向かった。
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