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朝の連絡③
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パパはずるい、と思う。
他人の命を人質にとるような真似をするのは、卑怯だ。正道ではない。
認識を修正しなければなるまい。武元草太朗は卑怯な真似をしないのではなく、安売りをしないだけで、必要だと判断したならばためらいなくカードを切る男だと。
そして、嫌悪の矛先は、ちゃちな脅しに心を揺らしている自分自身にも向く。
のどかは草太朗を徹底的に嫌悪したい気分だった。それなのに、彼手製のサンドウィッチを食べているうちに、強張っていた心は次第に緩んでいく。
空腹が解消されると、心にゆとりが戻ってきた。自室へと場所を変え、改めて問題と向き合ってみる。
自殺未遂をしたかもしれない人間の心に踏み込んでいく勇気が、自分にはあるのか、ないのか。
最悪の事態を招かないために、どんな言葉を選べばいいのか。
「続行不可能になったら、パパにバトンを渡せ」と言われたのは覚えている。「メッセージを送れ」という指示を拒んだなら、今後の美咲の説得は草太朗一人の仕事になる。のどかはこの件に関わらずに済む。
メッセージを送るなんて、馬鹿馬鹿しい。わたしは降りる。そう答えるのが、一番楽になれる道なのは間違いない。
「……でも」
「美咲は男性不信に陥っている」という草太朗の説が正しいなら、草太朗が成果を上げるのはかなり難しそうだ。美咲は幼少時から親しい付き合いがある遼ですら、コミュニケーションをとるのを拒絶しているというのに。
切言屋の収入は不安定だ。生活のことを考えれば、この件は諦めたくない。成功に導くためには、草太朗ではなくのどかがメインとなって説得に取り組むべきだ。
金銭のことを抜きにしても、中途半端な形で、実質的に永久的に美咲との縁が切れるのは惜しい気がする。
「……悔しいけど」
草太朗の「のどかは美咲のことを大切に思っている」という指摘は、どうやら的を射ているらしい。
スマホのアプリにボイスメッセージを吹き込む。事前に教えられた美咲の母親のスマホまで、そのデータを送信する。母親がそのデータを美咲のスマホに送る。そういう段取りになっている。
ボイスメッセージを聴くか聴かないかは、美咲の意思次第だ。そして、それを聴いて、どのような行動を起こすのかも。
しかしのどかは、何人もの想いが繋がった結果、巡ってきたメッセージだと気づくだけの想像力が美咲にあるなら、結果は悪いものにはならない気がしている。
よし、と、心の中でつぶやく。
スマホを充電器から取り外し、アプリを起動させる。中央のボタンをタップすれば録音開始。もう一度タップすれば終了。録音可能時間は最長三分だから、伝える内容を事前に整理しておけば、時間をはみ出す心配はしなくてもいい。
メッセージの内容はのどかが好きに決めていい、と草太朗からは言われている。まさか、こんなところでクリエイティビティが試される機会が巡ってくるとは思わなかった。
怖さは据え置きなのに、いつの間にか、美咲の心に影響を与えることに前向きになっている。
今回もパパにはまんまとやられちゃったな。
そう思えば、悔しさも薄れ、消える。
小さく深呼吸をしてから録音ボタンをタップした。
他人の命を人質にとるような真似をするのは、卑怯だ。正道ではない。
認識を修正しなければなるまい。武元草太朗は卑怯な真似をしないのではなく、安売りをしないだけで、必要だと判断したならばためらいなくカードを切る男だと。
そして、嫌悪の矛先は、ちゃちな脅しに心を揺らしている自分自身にも向く。
のどかは草太朗を徹底的に嫌悪したい気分だった。それなのに、彼手製のサンドウィッチを食べているうちに、強張っていた心は次第に緩んでいく。
空腹が解消されると、心にゆとりが戻ってきた。自室へと場所を変え、改めて問題と向き合ってみる。
自殺未遂をしたかもしれない人間の心に踏み込んでいく勇気が、自分にはあるのか、ないのか。
最悪の事態を招かないために、どんな言葉を選べばいいのか。
「続行不可能になったら、パパにバトンを渡せ」と言われたのは覚えている。「メッセージを送れ」という指示を拒んだなら、今後の美咲の説得は草太朗一人の仕事になる。のどかはこの件に関わらずに済む。
メッセージを送るなんて、馬鹿馬鹿しい。わたしは降りる。そう答えるのが、一番楽になれる道なのは間違いない。
「……でも」
「美咲は男性不信に陥っている」という草太朗の説が正しいなら、草太朗が成果を上げるのはかなり難しそうだ。美咲は幼少時から親しい付き合いがある遼ですら、コミュニケーションをとるのを拒絶しているというのに。
切言屋の収入は不安定だ。生活のことを考えれば、この件は諦めたくない。成功に導くためには、草太朗ではなくのどかがメインとなって説得に取り組むべきだ。
金銭のことを抜きにしても、中途半端な形で、実質的に永久的に美咲との縁が切れるのは惜しい気がする。
「……悔しいけど」
草太朗の「のどかは美咲のことを大切に思っている」という指摘は、どうやら的を射ているらしい。
スマホのアプリにボイスメッセージを吹き込む。事前に教えられた美咲の母親のスマホまで、そのデータを送信する。母親がそのデータを美咲のスマホに送る。そういう段取りになっている。
ボイスメッセージを聴くか聴かないかは、美咲の意思次第だ。そして、それを聴いて、どのような行動を起こすのかも。
しかしのどかは、何人もの想いが繋がった結果、巡ってきたメッセージだと気づくだけの想像力が美咲にあるなら、結果は悪いものにはならない気がしている。
よし、と、心の中でつぶやく。
スマホを充電器から取り外し、アプリを起動させる。中央のボタンをタップすれば録音開始。もう一度タップすれば終了。録音可能時間は最長三分だから、伝える内容を事前に整理しておけば、時間をはみ出す心配はしなくてもいい。
メッセージの内容はのどかが好きに決めていい、と草太朗からは言われている。まさか、こんなところでクリエイティビティが試される機会が巡ってくるとは思わなかった。
怖さは据え置きなのに、いつの間にか、美咲の心に影響を与えることに前向きになっている。
今回もパパにはまんまとやられちゃったな。
そう思えば、悔しさも薄れ、消える。
小さく深呼吸をしてから録音ボタンをタップした。
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