切言屋

阿波野治

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朝の連絡④

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 朝の早い時間帯に遼のスマホに電話がかかってくるのは珍しい。
 友人とは、たいていアプリを通じてテキストメッセージでやりとりを済ませる。
 時間帯を問わず気軽に電話をかけていた幼なじみは、今や狭い世界に閉じこもってしまった。
 あとから思えば、こんな特殊な時間にかけてくるのはあの人くらしかいないのだが、寝ぼけていたせいですぐには正体が分からなかった。幻聴かとさえ疑ったが、画面に表示された発信者の名前を見た瞬間に眠気は消し飛んだ。

 草太朗は朝早くに電話したことを詫びると、さっそく用件を伝えた。切言屋から遼への「最後のお願い」は、一筋縄ではいかないという印象を受けた。
 ようするに、重要な任務だということだ。

 今までは遼やのどかを操作することに終始していた草太朗が、いよいよ自ら動くという。
 事態はとうとう動きはじめるらしい。

 
* * *


 遺憾ながら、頼れる人間は伊東くらいしか思い浮かばなかった。
 思い立ったらすぐに行動しなければ気が済まない質だし、今回に関しては「なるべく急いでくれるとありがたい」と草太朗から指示されている。

「頼むよ、伊東。お願い、このとおり……!」

 遼は電話で伊東に協力を要請した。恥も外聞もない。

「俺のためだと思わなくてもいい。美咲のためだと思って、俺を助けてくれ。頼むよ。なあ、伊東。美咲は今――」

 熱弁だった。羞恥の念が邪魔をしたのは駆け出しだけで、それを乗り越えると吹っ切れた。吹っ切れてしまうとむしろ清々しかった。

「なんだよ、結城。必死になっちゃって、だせぇなぁ。お前らしいと言えばお前らしいけど、やっぱりださい。笑えるなぁ」

 予想していたとおり、伊東は遼の熱くも青い想いを囃し立て、からかった。理知的に見えて、その実下世話な伊東という男にとって、遼が提供した話題はまたとない御馳走だったらしい。
 ただ、二人の関係を今日初めて知ったわけではないし、心を動かされたのもたしからしく、やがて笑いを収めて「協力する」と確約した。

 伊東の交友関係の広さはさほどでもないが、数十名に及ぶ連絡先を知る人間の中に、偶然にも綿貫弥生のグループに属する女子生徒がいた。平内という名前で、伊東のクラスメイトだという。存在をすっかり失念していたらしく、見つけた伊東が一番驚いていた。

「平内とは、いわゆる友だちの友だちの関係だな。平内とは過去にいっしょに遊んだことがあるよ。もう記憶にないけど、連絡先はそのさいに交換したんだと思う。遊んだのは一回きりだし、遊んだ日の夜に当たり障りのないメッセージを数回交わしただけで、以降は連絡はいっさいとっていない」

 以上が伊東の説明だった。
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