切言屋

阿波野治

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朝の連絡⑦

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「話を聞けば聞くほど疑わしいんだけど。あんたのことも、武元草太朗って男のことも、両方とも胡散くさく感じる。もしかしてだけど、あんたたち、グルになってあたしになにかしようと企んでない?」
「そんなこと、するわけないだろ。俺は美咲を助けたい。草太朗さんは金銭と引き換えに美咲を助けようとしている。それだけだよ」
「そう言われても、嫌なものは嫌なんだけど。ねえ結城、あたしその申し出には――」
「綿貫さんっ!」

 思わず机の天板を叩いていた。電話越しには、あるいは銃声のように聞こえたかもしれない。愚痴っぽく抗弁していたのが嘘のように、弥生は黙り込んだ。

「綿貫さん、君は美咲の友だちなんだよね? 美咲のことを大切に思っているんだよね? それは僕も同じだ。美咲の友だちだし、美咲のことを大切に思っている。その美咲の友だちなんだから、綿貫さんのことも大切だ。綿貫さんになにか不利益を与えたくて、草太朗さんと会って話をしてくれと言っているわけじゃない。それは信じてほしい」

 返事はない。遼は言葉を重ねる。

「綿貫さんは前に俺と話をしたさい、『お見舞いには行かないの』っていう俺の言葉に対して、『美咲に会うのが怖い』って答えたよね。『美咲があたしに会いたいと思っているか分からないから怖い』って。それと同じように、草太朗さんに会うのも怖がっているのかもしれないけど、草太朗さんは美咲とは違って、確実に綿貫さんに会いたがっている。だから、不安がる必要はどこにもないよ。どうしても怖いっていうなら、俺が付き添ってもいいし。だから、頼むよ。これはマジで一生のお願いだから」

 沈黙が長く続く覚悟もしていたが、五秒も経たずに弥生の声が聞こえてきた。正確には声ではなく、ため息。呆れたような、さばさばとした物言いでの発言がそれに続く。

「怖い、怖いって、結城ねぇ、あたしは別に怖がってなんかいないから。十六歳の女の子として、初めて会う怪しげな男に警戒してるだけだから。……でもまあ、あんたの話を聞いているうちに、そう怪しい人間でもないのかなって気がしてきたかな。少なくとも、いたいけな女子高生によからぬことをしようと企んでいる男ではないのかなって」
「じゃあ、会ってくれるんだね?」
「会うに決まってるでしょ。美咲のためなんだから。で、その武元草太朗とかいう人とはどこで会えばいいの? いい加減通話も長くなってるし、さっさと伝えてさっさと切って。あたし、好きでもない男と長話する趣味はないから」
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