59 / 113
朝の連絡⑦
しおりを挟む
「話を聞けば聞くほど疑わしいんだけど。あんたのことも、武元草太朗って男のことも、両方とも胡散くさく感じる。もしかしてだけど、あんたたち、グルになってあたしになにかしようと企んでない?」
「そんなこと、するわけないだろ。俺は美咲を助けたい。草太朗さんは金銭と引き換えに美咲を助けようとしている。それだけだよ」
「そう言われても、嫌なものは嫌なんだけど。ねえ結城、あたしその申し出には――」
「綿貫さんっ!」
思わず机の天板を叩いていた。電話越しには、あるいは銃声のように聞こえたかもしれない。愚痴っぽく抗弁していたのが嘘のように、弥生は黙り込んだ。
「綿貫さん、君は美咲の友だちなんだよね? 美咲のことを大切に思っているんだよね? それは僕も同じだ。美咲の友だちだし、美咲のことを大切に思っている。その美咲の友だちなんだから、綿貫さんのことも大切だ。綿貫さんになにか不利益を与えたくて、草太朗さんと会って話をしてくれと言っているわけじゃない。それは信じてほしい」
返事はない。遼は言葉を重ねる。
「綿貫さんは前に俺と話をしたさい、『お見舞いには行かないの』っていう俺の言葉に対して、『美咲に会うのが怖い』って答えたよね。『美咲があたしに会いたいと思っているか分からないから怖い』って。それと同じように、草太朗さんに会うのも怖がっているのかもしれないけど、草太朗さんは美咲とは違って、確実に綿貫さんに会いたがっている。だから、不安がる必要はどこにもないよ。どうしても怖いっていうなら、俺が付き添ってもいいし。だから、頼むよ。これはマジで一生のお願いだから」
沈黙が長く続く覚悟もしていたが、五秒も経たずに弥生の声が聞こえてきた。正確には声ではなく、ため息。呆れたような、さばさばとした物言いでの発言がそれに続く。
「怖い、怖いって、結城ねぇ、あたしは別に怖がってなんかいないから。十六歳の女の子として、初めて会う怪しげな男に警戒してるだけだから。……でもまあ、あんたの話を聞いているうちに、そう怪しい人間でもないのかなって気がしてきたかな。少なくとも、いたいけな女子高生によからぬことをしようと企んでいる男ではないのかなって」
「じゃあ、会ってくれるんだね?」
「会うに決まってるでしょ。美咲のためなんだから。で、その武元草太朗とかいう人とはどこで会えばいいの? いい加減通話も長くなってるし、さっさと伝えてさっさと切って。あたし、好きでもない男と長話する趣味はないから」
「そんなこと、するわけないだろ。俺は美咲を助けたい。草太朗さんは金銭と引き換えに美咲を助けようとしている。それだけだよ」
「そう言われても、嫌なものは嫌なんだけど。ねえ結城、あたしその申し出には――」
「綿貫さんっ!」
思わず机の天板を叩いていた。電話越しには、あるいは銃声のように聞こえたかもしれない。愚痴っぽく抗弁していたのが嘘のように、弥生は黙り込んだ。
「綿貫さん、君は美咲の友だちなんだよね? 美咲のことを大切に思っているんだよね? それは僕も同じだ。美咲の友だちだし、美咲のことを大切に思っている。その美咲の友だちなんだから、綿貫さんのことも大切だ。綿貫さんになにか不利益を与えたくて、草太朗さんと会って話をしてくれと言っているわけじゃない。それは信じてほしい」
返事はない。遼は言葉を重ねる。
「綿貫さんは前に俺と話をしたさい、『お見舞いには行かないの』っていう俺の言葉に対して、『美咲に会うのが怖い』って答えたよね。『美咲があたしに会いたいと思っているか分からないから怖い』って。それと同じように、草太朗さんに会うのも怖がっているのかもしれないけど、草太朗さんは美咲とは違って、確実に綿貫さんに会いたがっている。だから、不安がる必要はどこにもないよ。どうしても怖いっていうなら、俺が付き添ってもいいし。だから、頼むよ。これはマジで一生のお願いだから」
沈黙が長く続く覚悟もしていたが、五秒も経たずに弥生の声が聞こえてきた。正確には声ではなく、ため息。呆れたような、さばさばとした物言いでの発言がそれに続く。
「怖い、怖いって、結城ねぇ、あたしは別に怖がってなんかいないから。十六歳の女の子として、初めて会う怪しげな男に警戒してるだけだから。……でもまあ、あんたの話を聞いているうちに、そう怪しい人間でもないのかなって気がしてきたかな。少なくとも、いたいけな女子高生によからぬことをしようと企んでいる男ではないのかなって」
「じゃあ、会ってくれるんだね?」
「会うに決まってるでしょ。美咲のためなんだから。で、その武元草太朗とかいう人とはどこで会えばいいの? いい加減通話も長くなってるし、さっさと伝えてさっさと切って。あたし、好きでもない男と長話する趣味はないから」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 〇
設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡
やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡
――――― まただ、胸が締め付けられるような・・
そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ―――――
ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。
絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、
遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、
わたしにだけ意地悪で・・なのに、
気がつけば、一番近くにいたYO。
幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい
◇ ◇ ◇ ◇
💛画像はAI生成画像 自作
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
※タイトルはそのうち変更するかもしれません※
※お気に入り登録お願いします!※
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!
FOX4
ファンタジー
王都は整備局に就職したピートマック・ウィザースプーン(19歳)は、勇者御一行、魔王軍の方々が起こす戦闘で荒れ果てた大地を、上司になじられながらも修復に勤しむ。平地の行き届いた生活を得るために、本日も勤労。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる