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弥生の証言②
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美咲と仲よくなったのは、笑っちゃうくらい小さな出来事がきっかけだった。
あたしは名字が綿貫で、美咲は吉村だから、出席番号が連続しているのね。うちのクラスは席替えがないから、あたしの席の前はずっと美咲の席で。
授業中、あたしはペンを落としたのね。ペンが転がった方向がそのときは前で、美咲の椅子の足元まで行って止まったの。
美咲はすぐに気がついて拾ってくれた。こっちから声をかけるまでもなく。
で、渡すじゃん。後ろを向いて。美咲もそうしたんだけど、渡す前にペンについたほこりを指で拭ったの。教室は毎日掃除するけど、面倒くさいから誰もそんなに真剣にやらないわけ。だからほこりが結構残っていたりするんだけど、美咲は付着したそれを拭ってからペンを渡してくれたんだ。
それを見た瞬間、「なにこの子」ってあたしは思った。悪い意味じゃなくて、いい意味での「なにこの子」。
だって普通、そんなことしないでしょ。汚いし。無意識での行動なのかは分からないけど、そのひと手間、普通はしないことをしてくれたうえで返却してくれたっていうのが、なぜかは分からないけど無性に刺さって。もうね、手にしているペンで心臓をぐさりってやられたみたいだった。
ペンを受けとるさいに、美咲の指を触らないように気をつけたのを覚えてる。ほこりを拭ったから汚いと思ったわけじゃない。その逆で、なにか神聖なものに思えて、あたしなんかが触っちゃいけない気がしたんだ。自分でもわけ分かんなくて、大げさで、気持ち悪いと思うけど、そう思ったものは仕方ないでしょ。
恋に落ちるってこんな感じなのかな、案外こういうささいなことから始まるものなのかなって、あとになって思ったりもした。あたしは同性愛者ではないから、胸がときめいたとかではないんだけど。
でも、とにかく、すごく変な感じはしたよ。上手い表現が見つからないから、変な感じとしか言えないんだけど。
その出来事がきっかけで、機会を見つけてはあたしのほうから話しかけるようになった。
みんなで集まって話をしているときに、机でスマホをいじってる美咲にいきなり話を振るとか。班を作って課題に取り組む授業のとき、席が前後だから美咲とはいっしょになることが多いんだけど、そのときに無駄話の一つでもしてみるとか。むちゃくちゃ積極的ではないかもしれないけど、わりと意識的に、友だちから「最近吉村さんと仲よくない?」って指摘されるくらいの熱量で、美咲とコミュニケーションを試みた。
今まで交流がまったくなかった分、目立っていたんじゃないかな。席が前と後ろだけど接点はまったくなくて、私語を交わしたことすらなかったから。
あたしは名字が綿貫で、美咲は吉村だから、出席番号が連続しているのね。うちのクラスは席替えがないから、あたしの席の前はずっと美咲の席で。
授業中、あたしはペンを落としたのね。ペンが転がった方向がそのときは前で、美咲の椅子の足元まで行って止まったの。
美咲はすぐに気がついて拾ってくれた。こっちから声をかけるまでもなく。
で、渡すじゃん。後ろを向いて。美咲もそうしたんだけど、渡す前にペンについたほこりを指で拭ったの。教室は毎日掃除するけど、面倒くさいから誰もそんなに真剣にやらないわけ。だからほこりが結構残っていたりするんだけど、美咲は付着したそれを拭ってからペンを渡してくれたんだ。
それを見た瞬間、「なにこの子」ってあたしは思った。悪い意味じゃなくて、いい意味での「なにこの子」。
だって普通、そんなことしないでしょ。汚いし。無意識での行動なのかは分からないけど、そのひと手間、普通はしないことをしてくれたうえで返却してくれたっていうのが、なぜかは分からないけど無性に刺さって。もうね、手にしているペンで心臓をぐさりってやられたみたいだった。
ペンを受けとるさいに、美咲の指を触らないように気をつけたのを覚えてる。ほこりを拭ったから汚いと思ったわけじゃない。その逆で、なにか神聖なものに思えて、あたしなんかが触っちゃいけない気がしたんだ。自分でもわけ分かんなくて、大げさで、気持ち悪いと思うけど、そう思ったものは仕方ないでしょ。
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でも、とにかく、すごく変な感じはしたよ。上手い表現が見つからないから、変な感じとしか言えないんだけど。
その出来事がきっかけで、機会を見つけてはあたしのほうから話しかけるようになった。
みんなで集まって話をしているときに、机でスマホをいじってる美咲にいきなり話を振るとか。班を作って課題に取り組む授業のとき、席が前後だから美咲とはいっしょになることが多いんだけど、そのときに無駄話の一つでもしてみるとか。むちゃくちゃ積極的ではないかもしれないけど、わりと意識的に、友だちから「最近吉村さんと仲よくない?」って指摘されるくらいの熱量で、美咲とコミュニケーションを試みた。
今まで交流がまったくなかった分、目立っていたんじゃないかな。席が前と後ろだけど接点はまったくなくて、私語を交わしたことすらなかったから。
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