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図書館の天啓⑤
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それでは、光に向かって手を伸ばすのを妨げている要因とは、なんなのか。
鬱病ではないのだとすれば、なんという名前の病気なのか。
「鬱病とは似て非なる病……。気力や意欲自体がないわけではなくて……。やりたくないからやらないわけではなくて、したくてもできない……」
ヒントがないわけではないが、どれもこれも抽象的すぎる。自身がその病気だと診断を下された経験を持つだけに、鬱病に関する知識はある程度あるが、類似の症状に関する知識は皆無といってもいい。
手詰まりか、という思いが脳裏にちらつき出した。
ただ、娘と合流を果たす約束の時間までまだ半時間以上ある。徒労に終わるのを承知で、範囲を広げて一冊一冊精査していく。
そして、とうとうその瞬間が訪れた。
「これは……」
興味を惹く一冊に巡り合ったのだ。
鬱病を中心に、鬱病と誤診されることが多い病名も紹介されている分厚い書籍だったのだが、その中の一つに、気になる特徴を持つ病気があった。草太朗は初めて見る病名だ。その書籍のメインテーマである鬱病ほど詳細が語られているわけではなかったが、記載されている情報を見た限り、美咲に当てはまる部分が多いと感じる。
他にこれという手がかりがない現状、深掘りしてみない手はない。
館内に設置された端末を利用し、その病名がタイトルに含まれる書籍を検索した。数は少ないが何冊かヒットした。その中の一冊をさっそく読んでみた。
収穫は想像以上だった。
* * *
帰宅後、草太朗はのどかにソファに座らせて茶と茶菓子をすすめながら、図書館で得た情報について話した。
話があるにもかかわらず、帰りのバスの中で話さなかったということは、大事な話なんだな。
のどかはそう瞬時に察したらしく、よく冷えたミルクが注がれたグラスに口をつけることも、芳醇な香りのバタークッキーに手をつけることもなく、話に耳を傾ける態勢をとった。
愛娘の勘のよさに気をよくした草太朗は、愛娘とはうらはらにクッキーを積極的につまみながら話を進めた。
「ようするに、確証はないけど確信しているんだね、パパは」
ひととおり話し終わり、やっとのことでミルクを一口飲んで、のどかは言った。
「そうだよ。その考えでまず間違いないと思ってる。だから、それを前提に作戦を考えていくわけだけど、練り上がるのは明日の朝になりそうかな。これが最後だから慎重にいきたいしね」
「わたしにもなにか役割が与えられるの? これまでとは違った」
「そうなるんじゃないか。同じといえば同じなのかもだけど――まあとにかく、明日のお楽しみということで」
「……当日にいきなりは嫌なんだけど」
「ごめんね。でも、依頼が成功するか・しないかの大事なところだから、申し訳ないけど我慢して。のどかに負担をかけないような作戦にするからさ」
「じゃあ、まあいいけど」
恩に着るよ、というふうに娘に微笑みかけ、本日八枚目のクッキーをつまむ。
それを見たのどかはひとり言のように「食べすぎ」と言って、ミルクをまた一口飲んでからスマホを触り始めた。
鬱病ではないのだとすれば、なんという名前の病気なのか。
「鬱病とは似て非なる病……。気力や意欲自体がないわけではなくて……。やりたくないからやらないわけではなくて、したくてもできない……」
ヒントがないわけではないが、どれもこれも抽象的すぎる。自身がその病気だと診断を下された経験を持つだけに、鬱病に関する知識はある程度あるが、類似の症状に関する知識は皆無といってもいい。
手詰まりか、という思いが脳裏にちらつき出した。
ただ、娘と合流を果たす約束の時間までまだ半時間以上ある。徒労に終わるのを承知で、範囲を広げて一冊一冊精査していく。
そして、とうとうその瞬間が訪れた。
「これは……」
興味を惹く一冊に巡り合ったのだ。
鬱病を中心に、鬱病と誤診されることが多い病名も紹介されている分厚い書籍だったのだが、その中の一つに、気になる特徴を持つ病気があった。草太朗は初めて見る病名だ。その書籍のメインテーマである鬱病ほど詳細が語られているわけではなかったが、記載されている情報を見た限り、美咲に当てはまる部分が多いと感じる。
他にこれという手がかりがない現状、深掘りしてみない手はない。
館内に設置された端末を利用し、その病名がタイトルに含まれる書籍を検索した。数は少ないが何冊かヒットした。その中の一冊をさっそく読んでみた。
収穫は想像以上だった。
* * *
帰宅後、草太朗はのどかにソファに座らせて茶と茶菓子をすすめながら、図書館で得た情報について話した。
話があるにもかかわらず、帰りのバスの中で話さなかったということは、大事な話なんだな。
のどかはそう瞬時に察したらしく、よく冷えたミルクが注がれたグラスに口をつけることも、芳醇な香りのバタークッキーに手をつけることもなく、話に耳を傾ける態勢をとった。
愛娘の勘のよさに気をよくした草太朗は、愛娘とはうらはらにクッキーを積極的につまみながら話を進めた。
「ようするに、確証はないけど確信しているんだね、パパは」
ひととおり話し終わり、やっとのことでミルクを一口飲んで、のどかは言った。
「そうだよ。その考えでまず間違いないと思ってる。だから、それを前提に作戦を考えていくわけだけど、練り上がるのは明日の朝になりそうかな。これが最後だから慎重にいきたいしね」
「わたしにもなにか役割が与えられるの? これまでとは違った」
「そうなるんじゃないか。同じといえば同じなのかもだけど――まあとにかく、明日のお楽しみということで」
「……当日にいきなりは嫌なんだけど」
「ごめんね。でも、依頼が成功するか・しないかの大事なところだから、申し訳ないけど我慢して。のどかに負担をかけないような作戦にするからさ」
「じゃあ、まあいいけど」
恩に着るよ、というふうに娘に微笑みかけ、本日八枚目のクッキーをつまむ。
それを見たのどかはひとり言のように「食べすぎ」と言って、ミルクをまた一口飲んでからスマホを触り始めた。
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