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説得の時間⑥
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「私は……その……」
言い淀んでいる。答えづらいのだろう。ただ、会話に参加しようという意思は伝わってくる。
「弥生ちゃんと話をしたい気持ちは、あります。でも、上手くいくかどうか分からなくて。それが怖くて」
「大丈夫。きっといい話し合いができるよ。絶対に今よりも悪いようにはならない」
言下に、待っていましたとばかりに草太朗は言葉を返す。励ますように声を強めるのも忘れない。
「だって美咲ちゃんは、昨日まで誰とも、家族とすらも口頭で会話できなかったのに、今日はのどか相手にしゃべれることができたんだよ? 今日初めて話をする、親子ほどの年齢差がある異性の僕とでさえ会話できているんだよ? のどかよりも僕なんかよりも、友だちである弥生ちゃんのほうが圧倒的に話しやすいんだから、絶対にいい話し合いができる。間違いないよ」
「だけど私、声が……。しゃべるのだって上手くないし……」
「大きな声が出せない? 話しかたがたどたどしい? 話術が巧みじゃない? 僕から言わせれば、どれも取るに足らないことだよ。
だってさ、考えてみてよ。弥生ちゃんだって、そんなにしゃべるのが上手いわけではないよね。思ったことをそのまま口に出してしまう。人の気持ちを考える能力はあるけど、行動に移せないっていう弱点を抱えている。ようするに君と弥生ちゃんは、広い意味でコミュニケーション能力に不安を抱える者同士だ。似た者同士だと思えば、自分が上手く伝えられなくても恥ずかしくないし、相手の不器用な表現も寛大に受け止められる。このことを胸に刻んでおけば、楽な気持ちで話し合いに臨めると思うんだけど、どうだろう?」
「……たしかに。少し楽かな、とは思います」
「でしょ?
最後にもう一つだけアドバイスするとね、話し合いのときに弥生ちゃんに、学校に行きやすいようにサポートしてほしいって頼んでみるといいよ。なにか頼みごとをするというのは、『あなたのことを信頼していますよ』っていうメッセージにもなるから、弥生ちゃんはきっと喜ぶと思う。美咲ちゃんがまた学校に来られるのは、弥生ちゃんにとっては文句なしに嬉しいことなんだから、迷惑かもしれないだなんて考えずにね」
「大丈夫、でしょうか」
「大丈夫だよ。きっと大丈夫。もしかして、弥生ちゃんに連絡をとりづらい? 連絡先なら知っているから、僕のほうから電話してみようか?」
沈黙が降りた。しびれを切らしそうになるくらいの長い時間を経て、ドアの向こうから声が送られてきた。
「自分でやります。絶対に緊張するけど、声は確実に震えると思うけど――でも、自分一人でやりたいから」
言い淀んでいる。答えづらいのだろう。ただ、会話に参加しようという意思は伝わってくる。
「弥生ちゃんと話をしたい気持ちは、あります。でも、上手くいくかどうか分からなくて。それが怖くて」
「大丈夫。きっといい話し合いができるよ。絶対に今よりも悪いようにはならない」
言下に、待っていましたとばかりに草太朗は言葉を返す。励ますように声を強めるのも忘れない。
「だって美咲ちゃんは、昨日まで誰とも、家族とすらも口頭で会話できなかったのに、今日はのどか相手にしゃべれることができたんだよ? 今日初めて話をする、親子ほどの年齢差がある異性の僕とでさえ会話できているんだよ? のどかよりも僕なんかよりも、友だちである弥生ちゃんのほうが圧倒的に話しやすいんだから、絶対にいい話し合いができる。間違いないよ」
「だけど私、声が……。しゃべるのだって上手くないし……」
「大きな声が出せない? 話しかたがたどたどしい? 話術が巧みじゃない? 僕から言わせれば、どれも取るに足らないことだよ。
だってさ、考えてみてよ。弥生ちゃんだって、そんなにしゃべるのが上手いわけではないよね。思ったことをそのまま口に出してしまう。人の気持ちを考える能力はあるけど、行動に移せないっていう弱点を抱えている。ようするに君と弥生ちゃんは、広い意味でコミュニケーション能力に不安を抱える者同士だ。似た者同士だと思えば、自分が上手く伝えられなくても恥ずかしくないし、相手の不器用な表現も寛大に受け止められる。このことを胸に刻んでおけば、楽な気持ちで話し合いに臨めると思うんだけど、どうだろう?」
「……たしかに。少し楽かな、とは思います」
「でしょ?
最後にもう一つだけアドバイスするとね、話し合いのときに弥生ちゃんに、学校に行きやすいようにサポートしてほしいって頼んでみるといいよ。なにか頼みごとをするというのは、『あなたのことを信頼していますよ』っていうメッセージにもなるから、弥生ちゃんはきっと喜ぶと思う。美咲ちゃんがまた学校に来られるのは、弥生ちゃんにとっては文句なしに嬉しいことなんだから、迷惑かもしれないだなんて考えずにね」
「大丈夫、でしょうか」
「大丈夫だよ。きっと大丈夫。もしかして、弥生ちゃんに連絡をとりづらい? 連絡先なら知っているから、僕のほうから電話してみようか?」
沈黙が降りた。しびれを切らしそうになるくらいの長い時間を経て、ドアの向こうから声が送られてきた。
「自分でやります。絶対に緊張するけど、声は確実に震えると思うけど――でも、自分一人でやりたいから」
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