切言屋

阿波野治

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遼と美咲①

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 世界がどんどん暗くなる。
 暗さの進行と競争するように、結城遼は駆ける。
 目的地は、幼なじみの吉村美咲の自宅。

 今朝、草太朗から届いたメールには、「今日で説得は最後になるかもしれない」とあった。
 自信満々に大言壮語したようでも、予知能力で見通した確定的な未来を淡々と報告したようでもあるその言葉に、遼の体は震えた。武者震いに属するポジティブな震えなのか、怖気を振るったのか、彼には判断がつかなかった。

 たしかなのは、身も心も落ち着かない現状。

 放課後を迎えるなり真っ直ぐに帰宅し、動きやすい服装に着替えて道を走り出した。ひたすら遠くを目指したせいで、吉村家までの長い距離を走って引き返す羽目になった。
 環状のコースを設定することもできたのに、一直線に自宅から遠ざかるように走った遼も、悪いと言えば悪い。草太朗から電話がかかってくるという可能性自体、一瞬たりとも念頭に浮かばなかった気がする。

『美咲ちゃんの説得が終わったけど、のどかとも僕ともしゃべってくれたよ。原因はやっぱり弥生ちゃんとの関係のこじれで、話し合いをしたことで誤解は解けて和解もしたんだって。表現が難しいけど、美咲ちゃんが学校に行けなかった要因を取り除くことに合意したって感じかな。
 弥生ちゃんは今回の件に責任を感じているみたいで、登校を再開できるように全面的にサポートするって確約してくれた。ぎこちなかったけどご両親とも話をしたみたい。お母さん、泣いてたって。
 どうなるかは当日になってみないと分からないけど、僕は楽観してる。だって、周りはみんな美咲ちゃんに協力的だし、美咲ちゃんは誰かに無理矢理部屋から引きずり出されたんじゃなくて、自分の意思で外に出ることを選んだんだからね』

 草太朗は流れるようにそう説明した。
  発言がにわかには信じられなかった。ただ、草太朗が嘘をつく人ではないのは重々承知していたので、すぐに喜びが込み上げてきた。何度か思い描いたことがある、美咲の問題が解決したときを想像したものと比べると、ずいぶん静かな喜びだ。

 遼は「ほんとうですか?」と何度も問い質す。
 草太朗は問い質されるたびに「ほんとうだよ」と柔和な声で答える。
 そんなやりとりが続くうちに、冷静さを回復していった。心の温度が一定以下になった瞬間、「ああ、終わったんだな」と確信した。それと同時に、遼は地べたに座り込んだ。
 細かい部分で気になるところがあったので、遼はいくつか質問をした。二つ三つ尋ねるだけのつもりだったのだが、問いをぶつけるたびに新たな疑問が湧いた。「美咲ちゃんが秘密にしておきたそうなことまでは言えないけど」と断りながらも、草太朗はほぼNGなしで答えた。
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