切言屋

阿波野治

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遼と美咲②

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 草太朗の説明を聞く中で遼が感じたのは、吉村美咲の問題に関して、結城遼は蚊帳の外に置かれたまま終わってしまった、ということだった。

 美咲が長期間学校に行けず・自室にひきこもり・人としゃべれなくなった原因を作ったのが弥生なら、解決のための要になったのも弥生だ。
 両者を実質的に橋渡ししたのは、草太朗。
 頑なだった美咲の心を和らげ、解決へのお膳立てをしたのは、のどか。
 切言屋に依頼することを決め、閉じこもる娘の現状を強引に変更するのは慎んだ、という意味で助けたのは、美咲の両親。
 弥生の友人たちも、伊東も、貢献度は個人によって差はあるが、歯車として機能したのは間違いない。

 彼らと比べて、遼はどうだろう。
 たしかに、草太朗の指示に従ってよく働いた。切言屋の貼り紙を見つけ、美咲を救うように依頼したのは、他ならぬ遼だ。
 しかしそのどの役目も、他の人間でも代行可能、遼でなければできないことは一つもなかったように思う。
 弥生や友人への聞き込みは、草太朗は「遼にしかできない」と言っていたが、学校の外にいるところを狙ってコンタクトをとれば、草太朗やのどかでも可能だ。切言屋の存在だって、美咲の両親が藁にもすがる思いで救世主を探し回っているうちに、貼り紙に巡り合った可能性は充分にある。なにせ、吉村家と草太朗たちが住むアパートは同じ町内にあるのだから。

 まったく役に立たなかったわけではない。
 しかし、大きく貢献できなかったのも事実。

 遼は切言屋の二人のように、美咲の話し相手として抜擢されなかった。
 美咲が二番目に筆談相手として許可したのは、遼ではなくのどかだった。
 遼は美咲の幼なじみという、特別なポジションにいるのに。

 俺は、美咲にとってどんな存在なのだろう。
 美咲の胸の中で、俺はどの程度の存在感で場所を占めているのだろう。

 閉じた世界にいるあいだ、心の中で俺に救いを求めたことはあっただろうか?
 切言屋が説得にあたる前は?
 のどかちゃんと会話する機会を持つようになってからは?

 そんなことを頭の隅で考えるかたわら、なかば機械的に草太朗との受け答えをこなした。切言屋は、遼の内心の異変を鋭く見抜いたらしい。

「美咲ちゃんは緘黙症の疑いが濃厚という話をしたけど、緘黙症には一つ興味深い特徴があるんだ。それはね、中途半端に親しい人間だと逆に話しづらいと感じるんだって。クラスメイトとか、会ったらちょっと言葉を交わすくらいのご近所さんとか。つまり、遼くんは嫌われているから拒絶されたわけじゃない。だからあまり気に病まないほうがいいよ」

 慰める目的でかけた言葉なのは分かるが、「中途半端に親しい」という表現はまったくうれしくない。むしろ傷ついた。
 美咲が母親を「中途半端に親しい」以上の関係だと認識したのは、理解できるし妥当だと思う。
 しかし、ではなぜ、幼なじみの遼は母親よりも低い評価を下されたのか。

「いろいろと詳しく話をしてくださって、ありがとうございます。綿貫さんは美咲の家を出たと、草太朗さんのスマホに連絡があったんですよね? 俺、今外に出てるんですけど、久しぶりにちょっと話がしてみたいので、行ってみます」
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